埼玉協同病院

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専門医シリーズ5

立ち位置は人権を守る。 「いのちの章典」を掲げて

専門医シリーズ 5

高石 光雄

プロフィール●

山梨県生まれ。1980年新潟大学医学部卒、同年埼玉協同病院入職。1986年慶応大学医学部附属病院(国内留学)。1988年さいわい診療所長。1995年大井協同診療所長。1996年埼玉西協同病院長。2003年埼玉協同病院長。2012年埼玉協同病院院長補佐。

医療福祉生協連(医療生協の全国組織)では、「健康をつくる。 平和をつくる。いのち輝く社会をつくる」そして、「地域まるごと健康づくり」の理念のもとに様々な活動を進めています。その活動の指針となる「いのちの章典」が2013年に決められました。今回の特集はこの中の「参加と協同 」がテーマです。生存権や平和主義、幸福追求権などの憲法にもつながるこのテーマを病院の責任者としてすすめる高石院長補佐と野田さんに話を聞きました。 〈参加と協同〉私たちは、主体的にいのとくらしを守り健康をはぐくむ活動に参加し、協同を強めてこれらの権利を発展させます。(いのちの章典より抜粋)

参加と協同のポイントは「いのちの章典」

「『いのちの章典』でいう参加と協同は、医療生協のすべての活動を対象にしていますが、病院医療での参加と協同に限れば、その出発点は30年以上前から取り組んできた患者による医療評価だと思います。最初は苦情が中心でしたが、そのうちに病院を良くするための提案が含まれるようになりました。こうした質的転換のきっかけは『医療生協の患者の権利章典(以下、患者の権利章典)』でしょう」こう切り出した高石院長補佐。
現在の「いのちの章典」は、1991年にできた患者の権利章典の実践結果を引き継ぎながら、医療生協の定義、医療生協が大切にする価値と健康観、組合員の権利と義務を明確にして2013年に制定されました。
「ところで、患者の定義は、辞書では病気や怪我をして医者の治療を受ける人とあります。だけど1994年のWHOヨーロッパ地域事務所による『ヨーロッパにおける患者の権利の促進に関する宣言』で、患者は『病気か健康を問わず保健医療サービスの利用者』と定義されました。つまり、すべての国民が患者だということですが、患者の権利章典でも同様にすべての国民を患者だととらえていました」と説明します。
組合員との協同について「医療生協では、医療を提供する職員も病院を利用する地域住民も同じ組合員として対等であり、協力しあうことをめざしていますから、地域の組合員も要望するだけでなく、職員と一緒により良い病院づくりを考えることで、いのちの章典にある参加と協同を実感して欲しいと思います」と期待しています。

入院医療での参加と協同の取り組み

患者の権利章典の制定直後に、入院患者の参加と協同に取り組んだ経験を語りました。「1992年頃に、病棟の患者全員にカルテ開示を始めました。当時は紙のカルテを使っていましたが、週一度の総回診日の朝に全員にカルテを配って自由に見てもらいます。いろんな疑問や意見が出てきますから、その後の回診でやりとりをしていきました。多いときで4分の3が癌患者でしたが、知る権利や自己決定権に応えるよう、病名をちゃんと知らせて一緒に考えていきましょうと呼びかけました。ある患者がマスコミ関係者にその話をしたら、珍しいということで大勢のマスコミが取材にきて驚きました」
かつて平均在院日数制限はありませんでしたから、そういうことが入院中にできました。今では歪んだ医療政策によって平均在院日数は12日程度しか無く、入院中にじっくり対応できる時間的余裕がありません。「逆にいうと、今は、患者さんが地域にいる時に、日常的に学ぶ機会を持っていただき、自分で考えて決められるようになって欲しいと思います。そうした参加と協同ができる組合員を一人でも多く増やすことが大切だと思います。もちろん、病院職員も努力を怠ってはいません。現在取り組んでいるHPHは、地域の組合員の日常的な医療への参加と協同を促進する一例だと思います」そういう高石院長補佐は、地域で学べる機会を増やそうと地域社会と健康研究所主催の「出前講座」を担当していますが、もっと旺盛に出かけたいと願っています。

地域を変えるのは地域住民


診療情報室課長 野田 邦子

患者の参加と協同に取り組む診療情報室の野田さんも「アンケートでは『自己決定したい』と多くの人が答えますが、実際自分が患者になると『肝心なことを聞きそびれた』『何を聞いていいかわからない』となる方がいます。一方で「普段から家族と話しあっておかねばならない』『自分が意思表示しておかないと終末期に家族が困る』などの理解も広がりつつあります。本格的に患者の医療参加をすすめるには、自分が医療の主体者なのだと自覚してもらうことと、意識的にその環境をつくることの両方が必要です」と力を込めます。 まだまだ、課題はたくさんあります。これを「医療生協だけでなく、地域全体に広めるには医療機関が主導するだけではなく、地域住民が変わって、主体的に参加して、医療機関を変えて住みよい地域をつくっていくことが重要だ」と二人は異口同音に話します。参加と協同は、医療生協の病院内だけにとどまっていればいいというものではありません。地域全体一緒になって、住民がどこでも主体的に参加し協同できるようになってこそ、主権者として行動できるようになるわけで、憲法に示されている主権在民の精神が根付いていくようになります。そこにも医療生協の大きな役割と決意が感じ取れました。 高石院長補佐は、医療情勢の中での医療生協の立ち位置を示唆します。「国は、地域包括ケアシステムで『住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けられる』と言います。しかし、どうやったら住み慣れた地域が創れるかを国は一切示していません。だったら、我々は人権を守る立場で『こうすれば住み慣れた地域が創れるのだ』ということを示そうではありませんか。それができるのが医療生協だと思います」と最後に少し口調を強め指摘されました。