専門医シリーズ

30年変わらぬ思い 専門は子育てサポーター

専門医シリーズ4

和泉 桂子 医師

プロフィール

1977年東京女子医大卒業

東京逓信病院でレジデント

1979年埼玉協同病院入職

小児科診療部長 日本小児科学会専門医

若い医師時代からお母さん的ベテラン医師になった現在まで、多くの母子を診て来た和泉医師。患者の立場に立った医療の実践がHPHの実践と重なっていることを語ってもらいました。

「子育てサポート医」

 和泉医師が育った長野県の岡谷市は女工さんが多く、昔から保育所があり、母親は在宅で仕事をしていて保育所に通っていました。体が弱く抗生物質もない時代で何度も入院し、看護師さんと仲良くなって、その頃から小児科医になることしか頭の中になかったと言います。
 協同病院で小児科をやる時には専門というより「子育てサポーター的な感じでやりたいという思いで始めました。それから30年、今も変わっていない」と言います。
 その思いを強くしたのは自身の子育ての時期にありました。同じ医師である夫が博士号を取る時に業績を出している横で子どものためにオッパイを飲ませながら「この差は一体何なんだ」と悶々としていた時に「子育てを基本にした小児科医がいてもいいじゃないか」と考えることができました。
 そこから『子育てサポート医』としての仕事に取り組みます。食物アレルギーでは子どもの食生活はもちろん、家族の嗜好も含めて食生活の指導をしなければ改善しないと栄養士さんにも入ってもらい、離乳食の作り方や食べさせ方を指導したり、病棟に保育士さんに入ってもらい入院中に生活リズムの指導をしてきました。
 うぶ声学校、離乳食教室、多職種が指導する乳児健診など様々な仕掛けをつくり、お母さん達が自主運営する「わいわい子育てサークル」にもつながりました。

全ての活動がヘルスプロモーション

 スウェーデンでの3年間の子育ても後押ししました。息子さんが通ったモンテッソーリで、家庭と同じキッチンで野菜料理をしたりしたのは「キッズ インザ キッチン」というヘルスプロモーションの政策だと後に知りました。ゴミの出し方も子どもの頃から学ばせていましたが、喘息も肥満も子どもの時にきちんとやらなければ、なかなか治らないのと同じだと思いました。
 和泉医師は「子どもの立場に立って発言する(アドボカシー )という小児科の立ち位置からすれば全ての活動はヘルスプロモーションになる」と考えています。 「子どもが幸せに健康で育つ」ことをすべての前提として取り組んできたことから、ただ親切に患者のためにとやってきたことが実は理論化すればヘルスプロモーションだったとHPH を捉えています。
 HPHをどのレベルで、どこまで徹底するかは病院次第。出産前から乳児期まで一貫して、かつ医師・看護師・助産師・栄養士が一丸となって生活から治療まで支援するシステムは、まさに協同病院の医療・保健・予防の柱です。

続く信頼

 大人の健診は病気を見つけることにあります。対して子どもの場合は病気も診ながらきちんと発達しているかをチェックすることが大切なポイントです。そして発達のチェックと同じくらいに子育て支援もしようと10年ほど前から保健学会でも奨励するようになりました。育つ環境もチェックし支援する。協同病院では古くからやっていたことです。
 近年は妊娠中から様々な悩みを抱えている親が増えています。仕事や家族のこと、シングルマザーで家計が厳しいという人も珍しくありません。問題がありそうな家庭には助産師が訪問したり保健所のような機能を担うこともあります。親の生活を理解することが、子育てサポートの小児科としてまず求められることだからです。
 アレルギー外来では1歳までに多種の魚を食べてと言います。お母さんの食事も書いてもらうと、鮭の一切れを二人で食べている母子がいます。ほとんど子どもが食べてしまうでしょうから「お母さんは食べてるの」と聞くと「実はお金がないから魚は一切れしか買えない」と。「お魚よりお肉の方が安いけど、まずお魚を食べてからお肉をと言われているから」、とそれをちゃんと守っている。けれど「お金が無い」と言われるとそれ以上になかなか踏み込めない時もあります。

「孫を診る」時はやさしくなる

 「若い医師時代には、自らも子育て中で母親たちの苦労や悩みもよく分かり、共感もするし仲間意識もあり、よく叱っていたんだと思います。昔子どもを連れて受診していた何人もの母親たちからは『よく叱られた』と言われます。けれど私自身にはあまり『叱った』という記憶はありません。その子どもたちが親になって子どもを連れてきます。すでに孫にあたる子どもの母親たちには随分優しく接することができます」と和泉医師。当時の親たちもちゃんと老後の親を連れて病院に来てくれる。小児科医としての役割はこういうところにもあるのだろうと最近は思っています。
患者の立場に立った医療はヘルスプロモーションにつながっています。

薬を出すだけが仕事じゃない

小児科医 平澤 薫

和泉先生に教わった、鼻水を上手くかめる指導や離乳食の指導は協同病院では当たり前ですが「病気を診るだけ」のところでは必要とされません。薬が欲しいお母さんたちにも、大事なのは薬じゃなくてケアだと話します。食事や生活習慣は大人になってからの健康にも影響を与えるため、小児科はお母さんの子育てを支援し問題を共有することを大事にしています。厚労省のガイドラインにも協同病院がやってきたことが言葉までそっくりに書いてあります。
子育てが心配なお母さんが、子どもとともに育っていくのは勇気付けられ、大きなやりがいになります。

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