埼玉協同病院

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医療の質 医の倫理・安全 倫理委員会

倫理委員会

埼玉協同病院倫理委員会 検討テーマ一覧(2001~2011年度)

公…定例会議以外での公開開催 臨…臨時開催 ■抜粋掲載あり

生命倫理に関わる検討

出生前診断、生殖医療
  【01-2】 出生前診断をめぐっての検討
  【04-3】 産婦人科領域における倫理問題~生殖補助医療の進歩と当院の課題
【08-4,5】 胎児情報のコントロール権について
終末期、DNAR、延命治療
  【03-1】 「終末期の医療に関する川崎協同病院の指針について」の討議報告
  【04-5】 終末期要望書の検討
  【05-5】 DNARガイドライン作成について①
【05-6】 DNARガイドライン作成について②〔答申〕
  【07-3】 DNAR指示のガイドライン運用後の検証
  【08-4】 終末期における延命治療について
  【07-4】 終末期の栄養療法について
移植医療、臓器提供
【07-1】 生体肝移植を考える
  【09-5,6】 「臓器の移植に関する法律」改正の問題点と対応
  【10-1】 脳死・臓器移植、どう考えるか
【10-2】 臓器の移植に関する法律「改正」の問題点と対応について(答申)

臨床倫理に関わる検討

治療拒否、患者の選択の合理性判断
【01-1】 「エホバの証人」の輸血拒否患者への対応について
~治療拒否事例への対応を含む~ 
【03-4】 予後不良の疾病とその治療について(未承認治療、民間療法を含む)
~その理解と選択のあり方
  【04-5】 医療現場における倫理問題とは
  【06-3】 誤嚥による肺炎を繰り返す高齢者、危険を冒しての経口摂取の是非について〔公開〕
  【06-4】 死を覚悟しての栄養摂取手段の拒否
インフォームドコンセント、患者の意思
  【01-4】 診療情報の開示:情報の共有とインフォームドコンセントについて
  【02-5】 患者の意思を尊重するとは~終末期の医療を考える
  【02-6】 患者の意思を尊重するとは~終末期の医療を考える(公開倫理委員会をふまえて)
  【03公】 患者の意思を尊重するとは~終末期の医療を考える
  【05-1】 インフォームドコンセント~説明と同意の実際について
【05-3】 病棟での終末期事例の検討~家族支援のあり方
【06-5】 事実を伝えることをめぐっての問題
-「本当のことを知らせたくない」と望む家族への対応を中心に
【06-6】 患者の意思決定能力の判断と対応について
高齢者医療、身体拘束、生活の質
  【01-5】 高齢者の終末期医療について
  【04-4】 痴呆高齢者の人権について考える(注:痴呆=認知症と改められた)
  【05-4】 在宅医療から終末期の倫理問題を考える
  【08-3】 高齢者の生活の質を高める医療について考える
  【10-2】 終末期における退院後の療養の継続性について~DNARはあくまで入院中の指示~
  【02-4】 身体拘束について
【07-2】 身体拘束~適切にするための課題
  【11-3,4】 高齢者の終末期医療について
―終末期医療における現状と今後実施すべき課題―
個別の倫理事例
  【02-1】 精神疾患と身体疾患を合併する患者の治療をめぐって
  【05-1,2】 医療安全室へ寄せられた事例の検討〔答申〕
  【05臨】 研修医より検討依頼のあった事例の検討Ⅰ~Ⅲ
  【07-5】 透析患者の自己決定を尊重するには
【07-6】 治療の場面における子どもの最善とは
【10-6】 子ども虐待と医療機関の関わりについて
  【09-4】 がん化学療法に関わる倫理的問題

組織倫理・職業倫理および社会的問題に関わる検討

チーム医療、医療者の倫理、病院の機能と利用者のニーズ
  【02-1】 川崎協同病院の事件をめぐっての討議報告
  【02-3】 「働くものの健康問題」に関する「働く人々の医療機関」としての課題と役割について 
【03-1】 各職種の倫理教育・研修とカンファレンスのあり方について
【04-2】 リスクのとらえ方と各職種の倫理について~事故事例(過誤を含む)より
  【08-1】 メンタルヘルス不全時代の職場運営について
  【08-2】 気になる患者をフォローするとは
  【09-1】 医療生協における機能分化と組合員の利益
   ~埼玉協同病院の役割と地域連携のあり方を考える~
  【09-3】 医療被曝について考える
  【10-4】 がん検診をめぐる倫理的問題
  【11-2】 当院における死亡時画像病理診断(Autopsy imaging,Ai)の考え方
  【11-5,6】 医療における参加と協同を発展させるために
~医療生協の『患者の権利章典』が果たした役割、そして課題~
安全管理と患者の人権
  【01-3】 医療におけるプライバシーの保護と安全性について
  【03-3】 医療の安全性とプライバシーを考える~名前確認の事例検討から〔公開〕
  【03-2】 電子カルテ導入に伴う倫理的問題について
  【04-6】 情報の管理と活用~電子カルテ導入一年をふりかえる
  【03-5】 患者の人権、参加と協同の立場から私たちの医療を考える〔公開〕
インフォームドコンセントの完全実施のために~医療訴訟、紛争事例から
【05-6】 適切な診療記録とするための課題について〔答申〕
【09-2】 患者の人権や尊厳に配慮した感染対策を探る~面会制限について~
社会保障、医療費
  【01-6】 医療費支払い困難な患者への対応について
  【03-6】 今後の社会保障改悪を、私たちはどのように考え、どう立ち向かうのか
今後の医療・介護のあり方そして職員・組合員のあり方を考える
  【04-1】 公的扶助を考える
  【06-2】 診療契約が困難で多くの問題を掲げる妊婦の事例について
【08-6】 生計困難者が経済的理由により必要な医療を受ける機会を制限されないような医療の提供と未収金発生に対する職員のジレンマ
  【09-3】 HPVワクチンの接種運動(公費助成運動)をめぐる倫理的問題について
虐待、家族対応、その他の社会的問題
  【01-4】 製薬企業からの「ヒト胎盤供給依頼」への対応について〔管理部諮問〕
  【02-2】 在宅医療現場における虐待への対応について
  【06-1】 家族対応に困っている事例について
  【10-5】 患者から受けるセクシュアルハラスメントに関する対応について
【10-6】 子ども虐待と医療機関の関わりについて

研究倫理に関る検討・臨床研究計画の倫理審査、未承認治療(個別)など

  【06-2】 経産婦の満足な出産を目指した出産準備教育プログラムの開発
  【06-2】 看護の質向上と医療事故防止のための施策立案に関する調査研究
  【07-4】 研究参加「かかりつけ医に関する調査」についての検討
  【07-4,5】 他施設からの情報提供依頼「ステロイド副作用に関する遺伝子解析」
  【08-1】 ドライマウスに使用する口腔ケア剤の開発に関する研究計画書の検討結果
  【08-1】 サリドマイド使用に関しての検討報告
  【08-3】 マゴット治療についての検討報告書
  【08-4】 フェンタニル、レミフェンタルのTHTNに対する抑制効果の心拍変動のpower spectral analysisを用いた研究について
  【09-1】 サリドマイド(商品名サレド)使用にあたっての倫理的問題の検討
    -薬事委員会からの経過報告を受けて-
  【10-4】 TRAPSの病態解明と診断基準作成に関する研究協力についての検討報告
  【10-4】 全身麻酔中微小誤嚥予防のための新しい気管チューブカフ研究について
  【10-6】 特別研究「チーム医療を促進する中堅専門職へのIPW現任研修による教育効果 ~専門職本人のIPW実践力の変化と職場への波及効果~」についての検討
  【10-6】 C型慢性肝炎におけるPEG-IFN・リバビリン療法およびウィルス消失時期に応じたIFN追加投与の有用性におけるヒト遺伝子(IL28B)の影響に関する多施設共同研究への参加についての検討
  【11-1】 一般病院における臨床研究のあり方
  【11-1】 緑内障点眼薬の服薬アドヒアランスに関する調査についての検討報告
  【11-1】 女性医師復職プログラム開発のための一般内科外来研究についての検討報告
  【11-2】 高LDLコレステロール血症を有するハイリスク高齢者(75歳以上)に対するエゼチミブの脳心血管イベント発症抑制に関する多施設共同無作為化比較試験についての検討報告
  【11-3】 外科系学会National Clinical Database(NCD)への手術情報登録
  【11-4】 「ミトコンドリアCKを排除した新規CK-MB活性測定試薬の臨床判断値に関する検証」 についての検討報告
  【11-4】 「母と乳児(生後6ヶ月前後)の行動と母子相互の自律神経反応との関係」検討報告
  【11-6】 生活保護・無料低額宿泊所における糖尿病患者の実態についての検討報告
  【11-6】 「全国腎疾患懇談会36回学術集会・全国アンケートのお願い」検討報告

対応の参考となりうる答申および報告(抜粋)【01~10年度検討より】

生命倫理に関わる検討

1-1 胎児情報のコントロール権についての答申

(08年度第4、5回答申)

2. 胎児情報を得るための出生前診断に生じる倫理的問題
1) 様々な立場からの権利意識や主張、価値観に基づき倫理的問題が構成されている。
出生前診断をしなかったために、障害児を出産した母親の訴訟問題は、日本国内問わず、世界的に生じている。国によっては、男児が好まれる傾向を理由として、医療法で性別告知を禁じているところもある。出生前診断をめぐっては、「胎児の権利」、「女性の権利」、「障害者の地位や権利」などの様々な立場からの主張が混在するのが現時点の状況であり、したがって、「個々の価値判断に委ねられる」問題であるともいえる。しかし、当院が、人間の尊厳に対してどのような立場(医療観、生命観、価値観)をとるのかについて、当院の医療理念にそった価値判断があってしかるべきだろう。
2) 胎児情報と胎児の「人権」を論じる方向性
法律上、胎児は権利の主体ではなく、人格が発生するのは生まれた瞬間である。胎児情報のコントロール権・人権を論じる上で、法律は低いハードルにならざるをえない。法律で禁ずる(または許容する)からというのではなく、「どういう病院でありたいか」「どういう地域社会でありたいか」という観点から、人権を尊重する主体(病院あるいは医療生協)・社会側の責任として「胎児にとっての最善を考えた胎児情報の取り扱い」を明らかにすることが大事である。
   
3. 胎児情報のコントロールにおける埼玉協同病院としての考えと課題
1) 胎児情報は基本的には胎児のものである。
「胎児にとっての最善」を考えた時、「中絶」という結論に合理性は見出せない。胎児の情報を伝える際には、胎児の利益になる方向で話し合われることが大事である。
2) 性別の情報提供は、胎児への愛着が形成されることを目的として検討されるべきである。
性別の情報提供は、親のニーズだけではなく、性別を伝えることにより、親の(胎児への)愛着が形成されるかどうかをよく検討し、中絶が違法となる22週以降に限定するべきである。そのためには、医師だけでなく、ケアに関わる助産師その他スタッフ等からの情報も考慮し、慎重に検討されるべきである。
3) 胎児情報の取り扱いに関する具体的な課題
胎児情報の取り扱いに関して、上記をふまえ、当院としての考え方についてよく論議し、利用者に提示する必要がある。そのうえで、情報提供の方法や、情報提供の前後における適切なカウンセリングの実施、胎児情報を扱う医師・カウンセリングを行うスタッフの教育、出産後に疾患や障害をもった子どもたちがどのように生きているか等の情報提供、地域社会での福祉の充実等の課題について整備する必要がある。

1-2 DNARガイドライン作成についての答申

(05年度第6回答申)

用語としては、DNAR(Do Not Attempt to Resuscitate)を用い、以降DNARで統一されることを推奨する(注1)。〔中略〕

3. DNAR指示に際して検討されるべきこと
院長より諮問されたガイドラインの内容として1.検討対象となる症例の考え方、2.発議および議論のしかた、3.最終的に管理部が確認する方法、4.発議から決定過程までの診療記録、5.日常的な相談部門または機関の確立、の5項目(要約)があげられているが、倫理委員会としては、DNAR指示の際に検討すべき事としてガイドラインに含めるべき項目として、以下の4点をあげる。他は、運用上の問題として作成の過程で検討されたい。
1) 終末期の判断およびDNARの適応対象の判断について
終末期であるとの判断(いかなる段階から治療にも反応しない、死が目前に迫っているなど)は、少なくとも日本における標準的な治療がきちんとなされた上で行われなければならない。その上でDNARの適応かどうかを判断する事が求められる。何を判断の根拠とし、どのような事例が適応となるのか(ならないのか)、原疾患の種類によっては、「助かる可能性があるのにしない」いうことにならないよう、差し控える処置内容を具体的に指示しておくこと等も決めておく必要がある。
2) 本人意思優先、意思が明確でない場合は生命維持を優先
悪性疾患の終末期等で、本人の意思確認ができる場合などのDNAR決定は比較的容易である。しかし、肺炎、脳梗塞後遺症などの高齢患者で、高度の意識障害があり本人の意思が確認できないケースで、蘇生しても回復の見込みがなく、人工呼吸器離脱ができない等がほとんど確実であると予測される場合など、介護に関わる周囲の状況により生命が左右される危険がある。本人の意思が明確でない場合は、「生命維持を優先する」という原則を貫く。
3) 推定的意思による決定の際に注意すべきこと
その時点で、本人が意思表示できない場合は、あくまでも「患者の推定的意思」による必要がある。患者の過去の言動、事前指示など意思を表したものなどから、「患者本人だったらどう考えるか」という立場で推定する。家族の負担(身体的・経済的・感情的)を配慮するあまり、安易に「DNARやむをえず」という判断がなされないよう特別の注意が必要である。決定に関わる家族の利害関係の有無を慎重に検し、社会的状況・財力等により生命が制限されることがないようにする。決定に際しては、適法性が保たれなければならない。現時点で有効な法解釈である、東海大安楽死事件の判例を踏まえる必要がある(注2)。
4) 検討会の持ち方および記録について
病棟スタッフを含めた検討会の持ち方、複数の医師による医学的適応の確認、患者・家族との面談時の看護師(またはMSWなど)の同席、診療録への記載方法、DNAR希望の変更の方法などが明確になっている必要がある。
   
注1) DNRとDNAR
DNRは「蘇生する可能性があるのに蘇生処置をするな」というイメージが強い。そのため、「蘇生の可能性がもともと低いので蘇生を試みる事をさし控える」という意味を込めたDNAR(Do Not Attempt to Resuscitateの略)が用いられるようになった(欧米・国内の各学会、団体等、ホームページで参照できるガイドラインや学会等への報告)。
注2) 「消極的安楽死における治療行為の中止」が許容される2つの要件(東海大の安楽死事件判決より)
  1. 治癒不可能な病期に冒され、回復の見込みがなく死が避けられない末期状態にある
  2. 治療行為の中止を求める患者の意思表示が、医療行為の中止を行う時点で存在する
     「中止を検討する段階で患者の明確な意思表示が存在しないときは患者の推定的意思によることを是認でき」、推定的意思の認定は、「患者の性格、価値観、人生観等について十分に知り、その意思を適確に推定しうる立場」にあり「患者の病状、治療内容、予後等について、十分な情報と正確な認識を持ってい」て、「患者の立場に立った上での真摯な考慮に基づいた意思表示」ができる家族の意思表示により補って行う必要があり、患者および家族に関する情報を収集し蓄積した上で、複数の医師及び看護師等による集団的な検討をもって適確な認定が行われなければならない。
     状態悪化(この場合は心肺停止)に際して治療行為(この場合は心肺蘇生)をしないとするDNARは、適応があいまいだと「不作為の行為による医師の注意義務違反」となりうる。「治療の不開始」は「治療の中止」と基本的には同一とみなされる。

1-3 生体肝移植を考える

(07年度第1回報告)

2. 生体肝移植に関する倫理的問題
1) 移植医療自体が倫理的な問題がある医療である。また、脳死、心停止後の臓器移植が普及しない中、生体肝移植が末期肝疾患患者の治療方法として代替している現状がある。
2) 臓器を提供するドナーは本人の配偶者または3親等内の家族となっていることから、移植を受ける本人は、手術そのものへの不安と、家族の臓器提供により生き延びる後ろめたさを常に感じている。家族はドナーとなることへの葛藤、ドナーにならなかった場合は後ろめたさを感じるなど、複雑な感情が交錯する。また、ドナーにも手術のリスクがあり、多少なりとも健康上の問題が残る可能性もある。高額な医療費の問題を一世帯で抱えることにもなり、生体肝移植という治療方法を知ったがゆえに家族間で葛藤を抱えるなど、様々な問題が生まれる。
   
3. 情報提供のしかたについて
 肝硬変等の診断がついた患者に対し、本人にできるだけ早期の段階で病状、治療方法、予後等について情報提供し、それらを十分理解した上で治療方法を選択できるようなしくみを作っていく必要がある。また、以下の点に留意し、情報提供をする必要がある。
1) 情報提供は、本人や家族の心理・社会的状況を医療者側が十分把握した上で行う。また、情報提供後も本人と家族の間にどのような問題が起こっているのかをつかみ、治療方法を選択するまでのプロセスに医療者側が柔軟に関わることが重要である。そして移植をするかどうかに関わらず、その後の精神的フォローを十分に行うことが大切である。
2) 病状がすすみ、緊急に今後の治療方針について判断を要する場合はすぐに本人,家族に病状・治療方法を説明することとなる。治療方法の選択をしてもらうにあたり、家族との話し合いの場を設け、相談可能な体制を整えるなどの配慮が必要である。
3) 本人が家族への情報提供を望まない場合、本人の意向を尊重しながらも、今後の治療を考える上で家族の理解や協力を得ることが必要な旨を説明し、本人の真意をさぐり、働きかけていく必要がある。
4) 病院内に生体肝移植に関して情報を得たいとき、悩んだ際に相談ができ、ドナーとなることを一度決めたとしても、いつでも撤回することができるよう、相談窓口を整える必要がある。
5) 生体肝移植に限らず、今後も医療技術の導入に伴い新たな問題が生じることが考えられる。職員はその都度、倫理的な問題の有無、どのように考え、対応すべきなのかを集団で検討し、議論を重ねていかなければならない。

1-4 臓器の移植に関する法律「改正」の問題点と対応について

(10年度第2回答申)

1. 「改正」臓器移植法はどのような法律か。どのような問題があるのか。
1) 旧法成立過程における自己決定の意義
身体や生命は「所有物」ではなく、自己の意思で生命を絶ったり他人に提供するという処分権のようなものは法律上存在しない。また、死体は「もの」という考え方であり、これまでも本人の意思によらず臓器摘出はできた(旧「角膜および腎臓の移植に関する法律」)が、心臓移植術の発展に伴い、心臓を動いている状態で摘出するため、死の判定ポイントを三徴候死より早める必要が生じ、移植医療をすすめる法整備が強力に進められてきた。しかし、脳死判定基準があっても運用されていない米国の実態や、脳死判定基準への異論など、脳死を人の死としてよいかについて十分な社会的議論が尽くされたとはいえない状況において、脳死臓器移植をすすめるうえでの唯一の合意点は、「死の基準」の自己決定を取り入れ「本人の明確な意思がある場合に限り、医師は脳死の状態で臓器を摘出することができる」としたことであった。
本法の基本的理念は、「死亡した者が生存中に有していた自己の臓器の移植術に使用されるための提供に関する意思は、尊重されなければいけない。(第2条)」である。〔中略〕
   
2. 移植医療は、今なお倫理的問題(医学上、医療経済、社会通念、命の平等など)のある、慎重に対応すべき医療技術の1つである。
1) 移植医療の必要性についての社会的合意は、ひとつの判断基準となる
生命に関わり他に代替のない臓器かどうか、生体か死体か、脳死かによってもその評価は異なるが、現在法律に定められている臓器の移植は保険診療となり、医療技術として定着した感がある。臓器を「必要とする」人と「提供したい」人がいてその技術があり、その恩恵を受けた人が存在するのは事実であり、移植によって救命の可能性がある場合には、選択肢として示す必要もある。その際には、本人・家族の心理・社会的状況の把握、真意を探り支援することや、情報提供後の本人家族間の問題の有無の把握やそのフォローなど(2007年度第1回報告)に留意する必要がある。
2) 安定的に提供できる技術とはいいがたく、過渡的な医療という考え方もできる
一方で、技術はあっても、恩恵を受ける機会の不公平や需要と供給の不均衡の問題がある。他人の死を介在し、また生体移植の場合には健康な人に侵襲を加える等の問題もある。移植医療の成績も含めた医療経済学的評価も十分議論されているとはいいがたい。レシピエントは誰でもなれるわけではなく「命が平等」とはいえない。医療として確立したとはまだいいがたい。また、日常診療への影響が甚大であるという点で、限られた人的資源・医療資源をどこに向けるのかという医療機能上の問題もある。他人の死に依存せずに必要な医療が供給できるような、人工臓器や再生医療の発展・早期実用化が望まれる。
3) 当院における対応の考え方を明確にする上で考慮すべきこと
他人の死を前提とし、あるいは健康な人を傷害するという点で、移植医療はやはり特殊な医療といえる。移植以外の治療やケアの可能性も探り、患者にとって最善の結果が得られるような努力やその成果を集積するなどの課題を、世に問うていく必要もある。ドナーとレシピエントを平等に大切にする視点を常に喚起し、知見の蓄積や事実の把握につとめ、医療者としてもっと深めるべき課題であり、技術の適応等の態度決定においては、上記の問題性をふまえ、結論を急ぐことなく十分に慎重に検討していただきたい。
   
3. 臓器の提供に関わる当院における対応と具体的な整備課題
 脳死下での臓器提供ができるのは、臓器提供施設に限られている。当院が現時点でできることは「心停止後の腎臓、膵臓、眼球と組織の提供」であり、以下のように対応する。
1) 臓器提供に関する本人の意思(および家族の総意)を確認する
2) 臓器の摘出を理由に治療行為の中止や生命装置の取り外しはすべきでなく、あくまで本人の意思(推定的意思含む)を最大限尊重した治療・ケアの提供に最善を尽くすこと(2007年確認)である。
3) 当院では脳死状態の判断が適切にできる状況にない。腎臓摘出にあたり停止前のカニューレ挿入は行わない。
 家族より治療の中止を求められた場合には、臨床的な病状経過・所見等による総合的な判断のもと、本人の意思を探り、本人の利益に適う方向で集団的に検討するのが原則である。そのうえで、以下の事項について具体的な整備を進められたい。(略)
4. 脳死・臓器提供の問題をよく知り、意思を育み尊重するとりくみをすすめる課題
 臓器の提供に関して家族(遺族)が迷わないためには、人の死をどう考えるかや、移植医療の恩恵(必要性、リスク、成績と代替医療の可能性など)、ドナーとなる際の実際の手続きなども理解したうえで、家族成員がそれぞれの考えを知っておく必要がある。104人が参加した公開倫理委員会は、判断する材料を適確に伝え、家族で話し合うきっかけを提起するのに、きわめて有効なとりくみであった。この経験を生かし、引き続き職員、組合員に向けて、学習と議論の場をつくり、「意思を持ち、家族と共有する」とりくみをすすめていただきたい。
臨床倫理に関わる検討

2-1 「エホバの証人」の輸血拒否患者への対応から治療拒否事例への対応を含む

(01年度第1回報告)

1. 「エホバの証人」が輸血拒否をすることは、信教の自由に基づく患者個人の権利であることを理解し、尊重する。
   
2. 患者が信者であることは、「署名カード(エホバの証人であることの証明書)」で確認を行う。
   
3. 治療行為については、医師の説明義務があり、医学的に輸血の必要性がある場合は、極力説明につとめ、以下のように対応する。
1) 診断と現症状、それに対する治療方法の選択肢(輸血に代わる治療方法、当院ができる治療か否か、対応できない場合の他医療機関の紹介など)、また、各方法の危険度(利害得失)、予後と将来予測などを説明する。
2) 判断力のある場合で、充分な説明を行った上で、輸血を拒否する時は、患者と輸血をしない治療をすることを『輸血拒否免責証明書』に署名捺印し、同意された内容を書面で確認する。(入院では、『入院治療計画説明書』、外来では、外来カルテ)
3) 緊急の場合で、痴呆や意識障害によりエホバの信者である本人の最終的な意思確認ができない場合、未成年者で意志決定ができない場合で信者である近親者が反対している場合は、生命維持に必要な輸血治療を行う方針を探る。
  • その場合、日勤帯は院長が責任者となり、倫理委員会職員委員を招集し、協議しながら対応をすすめる。休日や当直帯は、病棟当直医が責任者となり、当直医2名、看護婦1名以上を招集し、協議しながら対応を行う。
  • あらゆる説明によっても、近親者の合意が得られない場合には、必要な輸血を行ってもよいが、診療録には、説明の経過と同意か拒否かの記録を記載する。
4) 緊急の判断を必要としない場合は、院長は倫理委員会に会議の開催を要請し、倫理委員会の答申を参考に対応をすすめる。

2-2 予後不良の疾病とその治療について(未承認治療1)、民間療法2)を含む)
          ~その理解と選択のあり方

(03年度第4回報告)

1. 未承認治療の効用とリスク(危険性)
 予後不良の疾患で、これに対する確立された治療法がない場合、しばしば患者または患者家族は、のぞみをつなぐためにさまざまな美証人治療や民間療法を試みる。未承認治療は、その効用やリスクを判断する材料があまりにも少ないのが現状である。しかし、患者または家族が信じてやりたいと希望した場合、特に病院に持ち込み継続したいという希望に対しては「やれない」「やらない」という結論を伝えることが、患者の失望や怒りを招くことも少なくない。これらに対処する上で、効用とリスクを明らかにし、医学的判断を伝えることが重要である。
【期待される効用】
1) 一定の治療効果があると効果があると報告されているものもある。
2) 患者の生きる意欲、闘病意欲を高める可能性がある。
【予想されるリスク】
1) その治療による効用を裏付ける根拠がないか不十分である。
2) 安全性を確信できる材料が乏しい。
3) 保険が適切に行われている有されず、一般的に高額な費用負担が発生する。
4) よりよい治療(ケア)の選択を奪う可能性がある。
5) 有害反応が発生した場合、救済制度の対象とはならず、救済の方法がない。
   
2. 患者の自己選択をどのように保障するのか
 患者が選択しようとする治療法にリスクが大きく、行うべきでないと判断できる場合、あるいは行うことが適切でないと判断できる場合には、その医学的・倫理的判断の内容と根拠を伝える。その上で、患者が自身の状態を受容し、闘病に向かえるよう支援することを欠かしてはならない。実際には判断する材料がないことが多く、以下のような薬剤の適応外使用の考え方3)を準用することができる。
【法的判断】
以下の3点が満たされている限り、それず適応薬(治療)であるか否かを問わず、違法性はない。
1) 治療を目的としていること
2) 医学的に妥当と判断される方法(適応、投与法等)によっていること
3) インフォームドコンセントに基づいて薬剤を投与する(治療を行う)こと
【医学的判断の参考】
下記(1)~(4)項のどれに該当するかを見ることは、実施の是非を検討する上で参考になる。
(1) 実施して問題がないと判断できるもの
その治療法が、専門書、教科書、権威ある治療指針集、関係学会の治療指針・マニュアル等に記載されている。できれば複数のそれに同様の記載がある。諸外国において適応薬剤(治療法)とされており、その安全性や有効性が明らかである。
(2) 慎重に検討しやむをえない場合にのみ行うべきもの
(1)と(3)のレベルの間の状態で(1)に近い。
(3) 行うべきでないもの
実施した報告がない。あるいは、その治療法に対して支持する意見がある一方、反対意見や疑問とする意見もある。または報告等があるが、報告数や報告されてからの年月の経過が不十分である。
(4) 専門医により効能追加が妥当と判断された薬剤(治療法)
   
3. 持ち込まれた治療にどう対応すべきか(倫理的判断)
 未承認(有効性が確認され認められたものでない)治療・薬については、行わないのが当院での対応の基本である。しかし、臨床倫理の4分割法4)等を用いて集団的に検討し、その結果「他に治療法がなく、それを行うことが、患者の意思に沿い闘病意欲を高めるものであると考えられ、安全性に問題がない」と判断したときは、治験審査委員会の規定に従って実施することとなる。未承認治療は一般的に大きなリスクが予測される治療であることを考慮し、期待される効果やリスクについて、できうる限り十分情報を得た上で、医師は医学的判断を行う。実施できないと判断した場合には、患者にその判断をきちんと伝え、実施しないケアの提供を望むのか、実施できる他施設への紹介を望むのか、患者の意思を確認し、その後の方針を医療チームが協同して探っていく必要がある。
1) 未承認治療‥保険診療で行うための承認審査を受ける手続きを踏んでいない治療法であり、保険診療で実施することが認められていない。基礎実験や臨床試験により有効性、安全性を客観的に評価できるデータがないものがほとんどである。
2) 民間療法‥保険医療機関ではない診療施設等で行っているさまざまな治療法。購入し家庭でできるものなどを含む。
3) 薬剤の適応外使用の考え方‥岡田清.
4) Jonsenらが提唱した倫理的な症例検討の考え方をまとめたもの。一人ひとりの患者に対する医療の目標を、医療生協の患者の権利章典にそって科学的・総合的に検討する手法で、①医学的効用とリスク、②患者の意向、③患者のQOL、④周囲の状況、の4つの側面から検討する。ある一面だけが強調されがちな倫理的問題を、広い視野から討論する目的で用いる。

2-3 家族支援のあり方(病棟での終末期事例の検討より)

(05年度第3回報告)

1. 家族支援のあり方
1) 家族一人一人をアセスメントし家族の関係と生活に視点を当て問題を整理していくことが家族支援の第一歩になる。
 お見舞いに来ない家族に対し一面的な評価をしがちではないだろうか。医療者は家族との十分なコミュニケーションをとらぬまま「家族のイメージ」を持ち、時に偏見に近い思いを抱くことさえある。しかし働いている家族や遠方から病院に通う家族など、個々の多様性を認め、患者・家族の真のニーズを引き出すためのコミュニケーションをとることから始めなければ、誤解やギャップは解消されない。ギャッブが生じてしまった場合は放置せず、定期的に話し合いの場を設け、双方の誤解を解き納得につなぐ努力や工夫が必要である。
2) 医療者は誰に説明をするのが適切なのか、情報を収集する義務がある。
 法律的には、高齢の癌の末期患者の家族にきちんとした説明がなされていなかったケースで医療機関側に説明義務を問われた判例がある。より充実した最期の時を過ごす権利を医療機関は奪ったとして損害賠償が生じた。家族支援なくしてインフォームド・コンセントの完全実施は成立しない。

2-4 「事実を伝えること」をめぐっての問題

(06年度第5回報告)

1. 「病名・病状に関する私の考え」が患者の意思の反映となるよう、書面や活用のしかたを改善する必要がある。
1) 入院時は患者の状態が悪いことが多く、特に高齢者ではこの用紙が記入されていても代筆がほとんどである。患者の意思を反映しているとは判断し難く、活用されているとは言えない現状がある。何のために書いていただくのか、質問内容や聞きかた、記入のしかたのガイダンスを入れるなど、コミュニケーションの改善につながる書面にしていく必要がある。(別紙)
2) 患者本人の考えについては、入院後に病状が一定落ち着いた段階で、改めて「書いていただく」とか「聞き取る」「再確認する」などの行為を、看護過程の中に位置付ける必要がある。
   
2. 事実を伝える際の心配りと伝え方(コミュニケーション)の技術を身につける必要がある。
1) 病状が思わしくない、あるいは予後が厳しい状況である場合などには、その事実の伝え方によっては打撃的となり、生きる希望を失わせることにつながる恐れがある。一方で、何も伝えなければ、医療者への懐疑心を生み、協力して療養をすすめるための信頼関係を損ない、終末期を有意義に過ごせる可能性を奪う恐れもある。
2) 患者が「知りたくない」という明確な意思を持つ場合以外は、患者抜きで家族に伝えるべきではない。家族にだけ話されることは、事実を知らされた場合よりも、余計な懐疑心や憶測を生むことにもなる。患者に事実を受容する能力があるかどうかは、「知らせて大丈夫か」だけでなく「知らせなくて大丈夫か」を考え、揺れ動く心の状態に留意する。
3) 患者が「知りたい」という明確な意思を持つ場合でも、どこまで知りたいかを確かめつつお伝えする心配りが必要である。
   
3. 家族に対しては、患者に事実をお伝えしたあと、協力して支える姿勢であることを約束し、心構えを促す。
 患者に事実を伝えることを、家族が拒否するケースの多くは、お伝えした後の患者への対応のしかたを家族がイメージできず、不安であることが考えられる。また、家族のつながりや家族観が多様化していることを医療者は理解し、それぞれの家族関係をありのままにまず受け入れることが、ケアの始まりとなる。その局面では良くない知らせと思われるものであっても、知らせたことでよい結果になるよう、医療者が協力して支える態勢にあることを家族に伝え、安心してもらう。
   
4. 事実をお伝えしたあとのケアがより重要である。どのようなケアが求められるかを知り、患者の生きる力を信じて支えるために最善を尽くす。
1) 「これ以上何もすること(治療手段)がない」と告げられると、見放された気持ちになり絶望観が大きい。病名や病状、見通しをお伝えして終わりなのではなく、患者の意思に寄り添い、生きようとする力を信じて支えるための、その後のケアがより大事である。
2) 具体的には、「伝えようとした事実」がどのように伝わったのかを確認し、直後の落ち込みを受け止めること、チームとして支え最善を尽くすことを伝えてコミュニケーションを持続させること、伝えたあとのケアをきちんと行うことである。病気と闘う方針を相談し、「やり残したことを実現したい」「果たしたい」という患者の思いを引き出し、家族と医療者が協力して支えていることを確認しあいながら、患者にとって最善の利益が得られるよう力を尽くしていくことが求められる。

2-5 患者の意思決定能力の判断と対応について

(06年度第6回報告)

  (前略)
2. 患者の意思決定能力の有無を、医療者が適切に判断するためには、以下の3つの場合に分けて考えるのが現実的である。
①意思表示ができるが、真意であるかどうかが疑わしいとき
②本人の意識レベルが一定しないときまたは、コミュニケーションの方法が全くない
   とはいえない状態のとき(時により、場面により、相手により)
③本人の意識レベルが悪く改善の見込みがないとき
1) 患者には、入院という環境変化により混乱や錯乱が生じうることや、病気など人生の一大事を受容する一連の過程があることを、医療者は理解する必要がある。
 ①や②の一部の患者においては、拒否・拒絶や言動の矛盾は一時的であることが多い。一度で判断するのではなく、患者自身の選択が今までの考え方や価値観と矛盾していないか、選択した治療方針によってどのような結果になるか、また、治療しないことでどのような結果になるのかを理解しているか等について慎重に検討する。
2) 患者と医療者の知識や情報量に差があることを常に意識し、適切なインフォームドコンセントが実施できるよう心がける。
 患者に理解力があっても説明方法や話し方によっては異なる返答をすることがある。患者がどのように受け止めたのかを、いろいろな聞き方で確認することが大切である。治療方法、検査など説明した内容について質問を受けて初めてインフォームドコンセントが成立したといえる。そのうえでの意思決定であるのかどうかを慎重に検討する。
3) コミュニケーションスキルを高め、多職種が関わり情報を集中する。
医師だけでなく、看護師や他のコメディカルスタッフがそれぞれの場面での患者の言動を、寄せ集めていくことがとても大切である。難しいことは理解できないとあきらめず、やさしい言葉に置き換えたり、何気ない言葉や態度、表情から本心を推測できる事実を丹念に集めるなど、本人とのコミュニケーション技術に長けていく必要がある。そうして得た情報を総合的、集団的に検討して、意思決定能力の有無を慎重に判断する。
   
3. 意思決定能力がない(乏しい)と判断された場合は、意思を推定するために家族等から情報を収集することと、その過程が重要である。
 ②の場合で上記1)~3)を実施しても意思表示が得られない場合や③などの場合は特に重要な問題である。情報収集には限界もあるが、推定意思を探るためにキーパ-ソン1人に聴くのではなく、家族の関係性や利害関係も考慮しながら、今までの生活の中から正確な情報を集めることが重要である。患者の病状や今後を、家族がどのように受け止めているのを、段階的に繰り返し確認しながら、本人の意思はどうであったか、常日頃どのような発言があったのか、患者本人だったらどうしたいと言うだろうかを、主たる介護者からだけでなく聴き、誰の意見が患者の利益を代表しているかを慎重に判断する。
   
4. 意思決定能力の判断根拠や、意思推定の経過を診療記録として残す。
 意思決定能力の有無を判断する基準として一本の線が引けるわけではなく、比較的広いゾーンで考えざるをえない。また、事前の意思が書面等で残されるケースは稀であり、実際には意思の推定が困難なことが多い。最大限の努力をし、その過程を記録する。どのように意思を探ろうとしたのか、何が決め手となって患者の最善の利益を判断したのかを診療記録に残すことが重要である。

2-6 身体拘束~適切にするための課題

(07年度第2回報告)

〔「身体拘束」と「身体抑制」〕以下のように使い分ける

【身体拘束】:
行動や考え(医療との関係では行動に限定)に制限を加え自由を奪うこと全般を表現する
【身体抑制】:
具体的な行為やその道具名をさす場合に使用する 「四肢抑制」「抑制ベルト」等手順書においては、身体拘束にあたる行為として「手続きが必要な行為」について特定する

  (前略)
2. 身体拘束を適切に行うための課題
1) 身体拘束を考える視点~「安全確保」と「人権侵害」

(1)身体拘束の考え方を再確認する必要性
 身体拘束の考え方は、03年度第4回倫理委員会検討報告のとおりである。しかし実態は、手順からの大きな逸脱はないものの、「人権に配慮する」「人としての尊厳を守る」という意識が十分とはいえない。①身体拘束が人身の自由を侵害する行為であること、②身体拘束によって引き起こされる身体的・精神的・社会的弊害の内容、③どのような行為が身体拘束にあたるのか、またそれはなぜか、③「切迫性」「非代替性」「一時性」とはどういうことか、④なぜ手続きや記録にも慎重さが求められるのか、など再度確認する必要がある。

(2)身体拘束か否かの境界やその判断のありかた
 ある行為が身体拘束にあたるか否かは、自分の意思で行動する自由を奪う度合いで考える。2点柵であっても、設置の場所によってその患者にとって身動きができない状態であれば身体拘束と考えられる。行動制限を目的として意識低下を来たす向精神薬を過度に使用することも身体拘束にあたる。人工呼吸器使用時など、他の医療行為に伴って必ず必要となるもの以外は、十分な検討のうえ同意を得て慎重に行う必要がある。離床センサーで職員がかけつけることや見守りも、軟禁・監視と感じられれば身体拘束となる。
 担当者が単独で判断するのではなく、病院としての考え方(手順書)にもとづき、医師看護師をはじめケアチームで個別的に検討する。
2) 必要最小限の身体拘束を適切に行うとは~手続きと配慮

(1)実施の手続き(検討すべきこと)を具体的に明記する
 身体拘束はしないことが原則だが、拘束しないことで直接命に関わるリスクが伴うこともある。身体拘束を必要と感じた時は一人の判断では行わず、複数での検討を行った上で必要と判断した場合に実施することを徹底する。具体的には、身体拘束が必要と判断される具体的な状態・状況を記載できるようにすること、観察・検討項目、解除の基準・方法を明記し、求められる標準的な記録ができる同意書、看護記録・診療記録の様式を変更する。説明に際しては、身体拘束を最小限にするための家族の関わりを説明文書に入れる。

(2)配慮すべきことは何か
 身体拘束の実施にあたっては、本人のみでなく家族への配慮と、医療者のモティベーション維持においても十分な配慮が必要である。行動の自由を奪う度合いをなるべく軽くしたり、本人の拒否感を小さくするよう工夫する。患者が自制できない状態であることを他人の目に触れさせないような配慮も必要である。
3) 適切な対応のために、全医療者ができること

(1)すべての職員が関われる可能性があることを認識する
 各職種の専門的知識や経験を寄せ合うことで、身体拘束以外の安全確保の方法または治療方法や環境の整備、患者の注意を別に向けるなどの有効な工夫が期待できる。また、配慮が必要と感じる「人としての感性」を鈍らせない(「慣れて」しまわない)ためにも、他職種からのフィードバックは重要である。

(2)患者の行動に注意を向け、「患者が何をしたかったのか」を探る
 医療者側が「事故」ととらえるイベントがあったとき、患者が「なぜそうしたのか」「何をしたかったのか」を探ることで、解除のヒントが生まれる。またこれらの経緯を記録しておく。

(3)フェールセーフの考え方を重視する
 身体拘束は、患者にとって「イヤ」なことであり患者の行動に無理がかかるため、拘束部位の褥創や無理な行動を誘発し大きな事故に至る危険が伴う。できる限りの自由を確保し必要以上の拘束は避けるうえで、フェールセーフ(失敗しても事故に至らない)の対策を基本におく必要がある。これまでに検証された対策があれば情報交換し活用をはかっていくことも大切である。

2-7 治療の場面における子どもの最善とは

(07年度第6回報告)

1. 治療の場における子どもの最善をめぐって親の価値観と医療者の価値観が対立する場合には、治療と育児を区別して考え、ストレス管理も考慮する必要がある。
1) 治療の場面における子どもの最善については、3つの場合に分けて考える以下の対応1)を参考にすることができる。
①治療しなければ生命にかかわり、かつ治療の効果が明確である場合は親が拒否してもやる必要がある。

②生命にかかわるが、治療効果が低く治療にかかわる負担がある場合には、「最善の利益」の5つの基準(a子どもの年齢、b治療しなかった場合の健康と生命に関する危険がどうか、c治療すればよくなる見込みはどうか、d治療によって通常の生活を送れるチャンスがあるか、e治療から生ずる子どもの健康や生命の危険が最小限のものであるかどうか)を考慮して判断する。

③生命にかかわらない場合は、親の判断を尊重し、深くかかわるべきではない。
2) その子ども(親)にとって、入院生活自体が大きなストレスであることも考慮する。
 治療に直接関わらないものであって治療を妨害するものでなければ、望ましい生活リズムや食生活の体験重視といったことのために食事やお菓子類の持込みなどの制限を厳しくするだけでなく、むしろ緩和することも検討する必要がある。
   
2. 子ども自身に「なんらかの意思」が存在しない場合の、医療者の責任と介入の必然性の判断は、親の行為が「虐待」にあたるかどうかである。
1) 子ども自身が自分の意思をまだ持たない(持てない)場合
 生命に直接関わらないような子育てやしつけなどに関する問題は、親に従うべきである。医療者が介入すべきかどうかの判断基準は、親の行為が虐待にあたるかどうかである。
2) 子ども自身になんらかの意思が存在する場合
 それが真意かどうかを慎重に検討する必要がある。一般には13歳あたりが、意思を持つかどうかの境目のようだが、法律行為については、未成年のうちは親にそれを取り消す権利がある。治療に関しての意見表明権は法律行為にはあたらず、別の形での発展のさせ方が求められる。
   
3. 医療生協として健康的で豊かな子育てをサポートし、子どもの権利を発展させるために
1) 生活リズム、食生活、豊かな遊び、家族のかかわりは、子どもの全面発達に重要な要素であり、専門家による適切な介入も必要である。
 出生前から親との関わりが始まるのとは違って、幼児期や学童期に病気になって初めて関わる場合には、すでに子育てのスタイルが確立している場合が多い。「入院」や「通院」という機会は適切な介入のチャンスととらえることができる。今最優先すべき問題に対処しながら信頼関係を築き、親の価値観やおかれている状況を受け止めながら子どもの健康・発達にとってよい環境に少しずつ近づけていくことが大事である。
2) 多様な子育て観や生活の現状を踏まえた、段階的なかかわりの方法(プログラム)を探る必要がある。
 「必要な治療を行う」ことを第一に考えた場合、入院生活規制のハードルが高すぎないか、入院治療に限らない治療の選択肢を広げられる余地はないかなどを見直す必要がある。
3) 子どもの患者も意思を育む視点で関わることが大事である。
治療の場面で、子ども自身が意思をもち、意見表明できるようになることは、おとなの場合と同様に大切なことである。実際の診療の場面で、医療者が子どもと向き合い子ども自身の意思を引き出す関わりをしていくことが重要である。

2-8 子ども虐待と医療機関の関わりについて

(10年度第6回報告)

2. こども虐待に適切に対応するために
1) 意図(悪意)があるかないかではなく、子どもの心身に対する悪い影響や結果があるかどうかを対応の判断基準とすべきである
子どもに与える影響や結果の軽重に関わらず、また子どものためを考えてのことであったり、虐待との認識がなかったにせよ、子どもの不利益(心身・発育への悪影響、生命の危険)となる行為や状況は虐待と疑うべきである。言うことを聞かないからといって「無視する」「食事を与えない」「閉じ込める」などの行為は「しつけ」ではない。
 子どもを人格ある存在として、その権利を尊重するのが、我々の立場である。
2) 早期発見と発見時の対応~病院として対応する

(1)虐待を疑う眼を養う
 虐待は小児科や婦人科に限らず、あらゆる場面で遭遇する可能性がある。各現場でスタッフは、「虐待の存在を疑わせる」発育状態や心身の状況などから問題 を把握する力をつける必要がある。どのような行為や状況が虐待であり、対応が必要であるのかを、子どもの健全な発達と人権の立場から学ぶ必要がある。虐待につながりやすい経済的問題や親子関係などの情報を収集い、サインを見逃さない構えが必要である。

(2)地域の関係機関と協力してあたる
 虐待の情報を、児童相談所や保健所など地域の機関に集中することで、当院とのつながりが切れたとしてもフォローの環境は継続でき、最終的解決に向けての連携が可能となる。目の前の問題だけでなく、短期的な利益不利益に左右されない対応が求められる。

(3)病院としての対応体制を構築する
 スタッフの気づきをチームで共有し、チームで対応できる体制をつくる必要がある。病院としての判断基準やマニュアル整備、職員教育・相談、対応の検討・公的機関への通告など最終的解決策をも視野にいれた対応ができるよう整備する必要がある。対応するスタッフの心理的負担を軽減し、安全確保の点からも重要である。ケースによっては、暴力暴言対策委員会とも連携し対応することも必要だろう。
   
3. 虐待を生まない地域社会をつくるとりくみ
1) 虐待を防止するための啓発活動が大事である
 子どもの人権を尊重した子どもとのつきあい方、子育ての正しい知識を広め、地域全体で「虐待を許さない」という環境をつくっていく必要がある。
 子どもの健全な発達にとってどんなことが好ましくないのか、何が虐待にあたるのか、「子どもとはこういうもの」を親と社会全体が学びあうことが大事であると考えられる。
2) 親同士のつながり、支えあいのつながりをつくることは、親の孤独を防ぎ、虐待防止に有用と考えられる。
核家族社会で、テレビや雑誌が「子育ての相談相手」という母親が少なからずいる状況においては、「子育てわいわいサークル(※)」のような親がつながり悩みや不安を共有しあう場や、ボランティア、支えあいの場を設けることは、親の孤独を防止するのに有用と考えられる。虐待する親の側も抱えていることを視野に入れて、困った時にアクセスできる窓口を院内や地域につくることも考慮すべきだろう。
   
注) 子育てわいわいサークル・・・・医療生協さいたまが、若い母親たちを対象に専門家の話も聞きながらつながりをつくることを目的に設定した集まりから生まれたサークル。
組織倫理・職業倫理および社会的問題に関わる検討

3-1 各職種の倫理教育・研修とカンファレンスのあり方について

(03年度第1回報告)

1. カンファレンスの意義
 ここでは他職種が治療の目的や方法、患者の意思に沿い患者にとってベストの総合的治療とケア方針を検討する、いわゆる「多職種参加の合同カンファレンス」について述べる。 カンファレンスは組織(チーム)医療において、医療の質(安全性)を向上させる上でなくてはならないものであり、また職員教育の場としての意義がある。
   
2. 各職種はどのような立場でカンファレンスに臨むのか
1) カンファレンスに臨む視点
 「患者の権利章典にもとづく医療を実践する」という組織の理念にそって、患者の問題を検討し専門的技術・能力と感性を患者のために生かすことである。「これだけは譲れない」をもって臨む。
2) 専門性(技術)の研鑽
 専門職種はその専門性・立場を自覚・明確化し、その技量と感性・人間性を磨くことが重要である。
3) コミュニケーション力
 チームメンバー相互の人間的対等平等の関係を築くことが必要である。組織目標を実現するために必要な、解決策を導き出すことと、相手を尊重した相互批判が必要である。
   
3. カンファレンスを有効にするために何が必要か
1) 職種の自立・各職種の立場(視点)の明確化
 基本理念の明示と育成・研修プログラムに基づいて職種集団での研鑽することが必要である。
2) 問題をとらえる視点と対応策を考える科学的視点
 困難事例などの事例検討を通して、多角的な視点・視野、生活からまるごととらえる視点を培う。臨床倫理の4分割法などを用い、目的にそって、科学的に検討する訓練が有効である。また裏付ける科学性や根拠を学習する風土が必要である。
3) 医師の役割の重要性
 その中で特に医師の資質とリーダーシップは、チームの質・医療の質に大きく影響する。その能力を高める必要がある。また、ルールを守りチームとして決めたことを実行する組織内民主主義を培うことが不可欠である。
4. 管理運営上の課題と管理の役割
 組織内民主主義を確立すること、職種の自立、リーダー、担当者の責任を明確にするのは管理の役割である。技術の進歩を安全に臨床応用、管理するシステムを確立する。そのための課題を明確にし進める。

3-2 リスクのとらえ方と各職種の倫理について~過誤例より

(04年度第2回報告)

2. 初期対応の視点(病院として、部門として、個人として)
 事故発生時の対応としては、まず患者の状態を確認し、救済するのは当然である。その上で以下の視点が重要である。
1) 事実を伝えることは最も重要である。現時点でわかっていることを伝える。「健康被害が起きているか、どういう影響があるか」は調査、検討の上でなければならない。何も言わないことは隠すことと同じである。
2) 対応者を明確にする。責任者としての対応が重要であり、事故の当事者は出さないのが基本である。事故を起こした個人の問題というより、組織内あるいは組織間の複数の人の関係の中で発生する、組織・システムの問題ととらえる必要がある。当事者も広い意味では被害者であるという視点をもち守る必要がある。
3) 患者にとっては、「事故」あるいは「過誤」は絶対あってはならないことである。「起きて当然」「起こりうること」といった対応は納得できるはずがない。患者心理を学ぶ必要がある。
4) 「その事故がどういう原因で起きたか」は、時間をかけて多面的に解明しなければならない。
   
3. どうすれば患者の心に寄り添えるか
1) 職種の倫理観をどう育てるのか(安全文化・組織風土として)
 医療事故をシステムの問題と考えることは大事な視点であるが、それとは別に、医療者としての理念・倫理規定を定め、これに基づいて「事故をふりかえり事故から学ぶ」視点をもつ必要がある。医師をはじめとする医療者は倫理観や価値観が均質でないことが問題となっており、克服すべき課題である。ひとりひとりの認識・倫理観を「育てる」必要性が生じている。
  1. 民医連綱領や患者の権利章典、病院の医療福祉宣言、病院会の倫理規定などに立ち返って、事例をふりかえることが大事である。これらを通して、また各職種が自らの倫理規定・理念を一人ひとりが自分の言葉で語れるよう、討議してつくりあげる過程が重要である。
  2. 患者の感じ方と医療者のとらえ方、そのギャップを埋めるには、生の声を聞くことが有効である。医療被害を受けた人の話を聞く経験を持つことにより、職員の中には、変化が生まれている。
  3. 安全委員のレベルをあげていくことも重要である。外部講習や他施設のとりくみに学ぶなど、その積み重ねが安全文化を根づかせることにつながる。
2) 客観的な医療判断との両立
 専門職としての判断は大事であり、医療判断はなくては困る。しかし日常業務を行う上で必要な「判断」と、「慣れ=患者への害・不利益をとらえる感性の鈍麻」は区別しなければならない。感性を磨くには、患者の気持ちを100%受け入れることから始まる。あくまでも患者の判断基準は、最悪の事態ではなく、最良の結果である。このことをふまえた上で起こった事実を冷静・客観的にとらえ、患者の健康被害と心的ダメージを判断することが必要であり、そのためには、事例検討やシミュレーション(模擬患者、ロールプレイ等)によるトレーニングを積む必要がある。

3-3 適切な診療記録とするための課題

(05年度第6回報告)

1. 適切に記載する上で重要なことは、診療記録が「他者に伝達するためのものである」ことを、記載者が十分意識することである。
1) 診療記録は備忘録ではなく、他者が見るものである。他者とは、患者であり、他のセカンドオピニオンを求める際などの他の医師である。
2) 診療記録に求められる要件は、記載が豊富であることである。書いてないこと(行為や状態、判断等)は、実在しなかったと見なされる。
3) 話し言葉や、私信メールで多用されるような表現では、言葉の不足など、誤解が生じる記載になりがちである。また、絵文字や記号などの中には、システム障害を起こすコンピューター言語を含むため危険である。SOAPを用いた標準的な記載方法を用いて、「誰が(何が)」「どのようである」「どうした」などを明記することを心がける。
   
2. カルテ開示は自己決定権を保障する基本となるものである。カルテ開示に耐える診療記録にするためのしくみを、病院として位置付け、機能させていく必要がある。
1) 患者・家族が見て不快感を抱くような、配慮を欠いた記載は、自己決定権そのものを歪める。患者の意思にそう医療を進める上で、診療記録を適切にすることは重要な課題である。
2) 記録の適切性を確保する上で、院内での監査のしくみは必要であり有効と考えられる。現状のしくみを機能させ、改善につなげるよう活用されたい。
   
3. 現場の人権感覚を鈍化させないためには、不断の意識的なとりくみが必要である。
1) 学習会、事例検討など引き続きとりくむ。特に入職時の倫理教育や、倫理的な問題が日常的に話される職場風土づくりは重要と考えられる。
2) 日常的に「他者が見るもの」との意識化を強めるためのひとつとして監査とフィードバックのしくみが重要である。
3) 今回あげられた不適切と考えられる記載事例は、患者本人や家族が目の前にいない状況での記載である。「患者の存在」への意識が薄れないよう、職場内での相互の指摘も重要である。
4) 患者・家族が常にカルテを閲覧できる環境を整備することも求められる。

3-4 患者の人権や尊厳に配慮した感染対策を探る~面会制限について~

(09年度第2回報告)

2. 感染対策に必要な視点
1) 感染対策は患者の安全な療養環境の前提となる課題である。〔略〕
2) 面会制限は患者の人権に関わる問題であり、実施にあたっては十分な説明・同意のうえ納得性を高める必要がある。
 面会制限は、社会からの隔離の形態のひとつといえる。身体拘束における考え方に共通する、切迫性・一時性・非代償性の原則に基づき感染対策の手段の正当性を考えることが大切といえる。さらに、感染対策は患者本人だけの問題ではなく他の患者にも影響が生じるため、「説明と同意」そして「協力」が不可欠である。
3) 社会的な背景も考慮して感染対策を行う必要がある。
 新しい感染症や流行感染症に関しては社会的反響が大きく、マニュアルどおりの感染対策だけでは、時として対応が不十分と判断されかねない。医学的な視点はもちろんのこと社会的な背景も十分考慮して感染対策を行う必要がある。
 また、MRSAのように接触によって伝播するものと、インフルエンザなどのように飛抹感染により社会全体で流行するものの対策は、区別して考える必要がある。
   
3. 感染のリスクを最小限にしつつ患者の基本的人権の尊重および療養目的が遂行されるための、望ましい感染対策のあり方
1) 患者の視点を感染対策にとりいれる必要がある。
 常に、「患者にとってどうか」「療養目的にそってどうか」という視点で感染対策を考える必要がある。そのためには、感染対策委員会などに組合員が参加し、感染対策に伴う患者への行動制限が客観的(社会的な標準)にみて過剰になってはいないか、どのように説明をすればわかりやすく協力を得ることができるのか、などを検討するのもひとつの方法である。
2) 人権への配慮~制限による不利益をフォローアップする対策を考える必要がある。
 精神衛生法や日本国憲法で人身の自由は保障されている権利であり、隔離や拘束は基本的に行うべきではないが、患者の生命・安全を守るためにやむをえず行動の制限をしなくてはならない場合、それ以上のエネルギーをフォローアップに注ぐ覚悟が必要である。安全な面会所の設定や、面会者に対しての感染予防教育など、面会ができる方向での工夫を講じるなど、患者の安全性と個別性のバランスを考慮した対応が求められる。
3) 患者の状況に気を配り、対策の定期的な見直しや制限を解除する努力が求められる。
 ケア担当者は感染対策上の行動制限等に伴う患者の状況に常に配慮し、カンファレンスを行いながら制限を解除していく努力をしていくことが重要である。また、合理的で妥当な納得性の高い対策を実施していくうえで、感染対策委員会とケア担当者が協力して対策の定期的な見直しを行い、随時是正を図ることが求められる。

3-5 未収金発生に対する職員のジレンマ

(08年度第6回報告)

1. 未収金対応における倫理的な問題
1) 医療は本来無料で保障されるべきもの〔略〕
2) 貧困な社会保障制度にこそ問題の根源があることを共感することが基本〔略〕
   
2. 支払えない人を「支払わない人」と思ってしまわないためのスキルと患者の見方
 生活実態を確実につかみ、支払い困難な患者を「支払わない人」と思ってしまわないよう手立てをとる必要がある。経済的な問題を早期にとらえられない要因として、患者が経済的に困っているとは言いにくく、一般的な聞き方では問題が表出しないことがあげられる。表面に現れた現象・言動の裏に、家族の関係性を含む生活上の問題が潜んでいないか、心を閉ざしている理由は何かなど、深く聴き取ることで、「支払わない(=支払えない)」背景や真の原因が明らかになってくる可能性がある。そのためには、まず個人の生き方や価値観をまるごと受けとめたうえで、聴き方の工夫やスキルが必要である。
   
3. 経済的問題を早期に把握し、支払えない人を生み出さないためのアプローチ
 未収金の大部分は入院中に発生しているが、事務職員だけでなく患者に関わる各職種が入院早期に経済的問題をつかみ、未収とならない支援のしくみや、患者の生活をとらえる視点を磨く教育を行う必要がある。支払い能力の有無にかかわらず医療を提供するという使命感と、経済的困窮の原因を本人のみに帰属させず社会の問題ととらえ社会保障制度の利用につなげるという使命感がその前提となる。具体的な手立てや考慮すべきことを例示する。
1) 診察申込書や入院申込書などに、患者が発信しやすいように「医療費の件でお困りのことはありますか」などの質問項目を入れる。
2) 入院前または入院時に入院費用概算の説明を徹底し(個別および病棟内の掲示など)、早期の問題発見につなげる。
3) 入院時予約金等の導入は、早期発見・対処が可能となる利点があるが、受診しにくさにつながる危険もある。導入にあたっては両者を十分検討し慎重に決める。
4) 支払いが困難な背景(家族実態や生活実態)をつかみ、活用できる社会保障制度を検討しきったのか、他に手立てがないのかという視点で多職種が検討する機会をつくる。
5) 目の前の患者の支援を可能とするため、自治体や政府との交渉等を通じて現行社会保障制度や医療制度の運用の改善を促し、また制度創設などを求めていく。