専門医シリーズ

社会的視点を持ち続ける“社会派ER”

専門医シリーズ44

後藤 慶太郎

プロフィール

<認定資格>
日本救急医学会救急科専門医
日本内科学会総合内科専門医
日本病院総合診療医学会認定病院総合診療医
日本専門医機構総合診療専門研修特任指導医認定
臨床研修指導医・プログラム責任者
JPTEC インストラクター
ICLS コースディレクター
<経歴>
2000年 高知医科大学卒業
2000年 東葛病院勤務
2020年 埼玉協同病院勤務

埼玉県の二次救急指定病院である埼玉協同病院は、入院や手術を要する重症者を24時間体制で受け入れています。多忙な救急外来の指揮を執る後藤慶太郎医師に、救急医としての姿勢や近年の課題について話を伺いました。

誰でも受け入れることが使命

今年5月にリニューアルした救急外来には、これまで以上に多くの救急車がやってきます。

「二次救急なので、映画やドラマのような大ケガで瀕死の方は来ませんが、手術や入院が必要な重症の病気や怪我の人が来ます」という後藤慶太郎医師。総合内科医として10年ほど経験を積んだ後救急科医となり、5年前に埼玉協同病院の救急科部長に就任しました。

埼玉協同病院は、無差別・平等に誰でも受け入れる姿勢であることから、精神疾患、アルコール依存症、認知症、外国人、ホームレスといった困難を抱えた患者さんが運ばれてくる傾向にあるそうです。

「他の病院で断られた人にも医療を提供するのが、我々の社会的使命だと考えています」と後藤医師は凛として語ります。

とはいえ、年間約8000件もの救急要請の4割近くを断らざるを得ない現状に、忸怩たる思いもあるといいます。

人を助けるための熱意と技術

キャリアを積んだ今も後藤医師には、救急医として持ち続けている熱意と情熱があります。それは、“目の前で苦しんでいる人を助ける”というマインドです。

「たとえ生命の危機に瀕していても、その人をなんとしてでも助けてやろうという気持ちを持ち続けないと救急医は務まらないと思います」
 その一方で、人情や社会的正義感だけでは人を助けることができません。

「助けるためには、手先の技術や診断・治療をする能力、チームをまとめる能力も必要です。そこで自分は二流、三流と思われたくないという自負もあります」

だから、自身も技術獲得をおざなりにせず、研修医やスタッフにも、得手不得手の個性があるにしても正しい技術にこだわり、丁寧に行うように求めるそうです。

貧困や孤立が見えるER

孤立した高齢者や無保険の人、多量服薬やリストカットをした若者、外国人難民や実習生・研修生など、救急にはさまざまな人が運ばれてきます。後藤医師は、たくさんの患者さんを診るうちに、彼らの苦しみや孤独を理解できるようになったと話します。

「救急では、患者さんのリアルな姿が見えるんです。普段の衣服や持ち物のままだし、足の裏が黒いので救急隊員から家の状況を聞くと、ゴミ屋敷だったということもあります。それが、病院で綺麗に体を拭き、髭や髪の毛を整えて病院のパジャマに着替えると、その人の生活背景などは見えなくなってしまう」

特に最近感じるのは、高齢者も若者も孤独を抱え、孤立している人が多いことと、不況や非正規雇用で貧困に苦しんでいる人が多いことだといいます。

「我々も医療生協としていろいろな活動をしていますが、声が届かない人がたくさんいるのを痛感します」

社会的経済的問題から病気や怪我になる事実に目を向け、治療の場面はもちろんのこと、退院後の生活まで行政などと協働しながら考えることが重要だと語ります。

「やってて良かった」と思われるER

月2回ほどの当直はあるものの、だいぶ休みが取れるようになったという後藤医師。熱烈な阪神ファンで、休日は少年野球のコーチを務めています。中2、小5、小2の息子さんたちも、みんな野球少年です。

ある夜、次男が真っ青な顔でお腹が痛いと七転八倒していたため、看護師である妻が救急車を呼び、救急外来に搬送されたことがあるそうです。

「そうしたら、なんとただの便秘だったんですよ」と後藤医師も苦笑い。「医療関係者でも慌てるんですから、普通の人は家族がひどい状態だったら、いてもたってもいられないですよね。だから、急な病気や怪我の際は、遠慮せずに救急外来に電話相談してください」と言います。

「やってて良かった」と皆さんに思ってもらえるような救急を目指して、今日も後藤医師は日夜奮闘しています。

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