専門医シリーズ

透析をする方が元気でいられるよう力を尽くす

専門医シリーズ17

肥田 徹 医師

プロフィール

日本内科学会総合内科専門医


2008年 モスクワ大学 医学部卒業、

2008年 埼玉協同病院 入職、

2017年 埼玉医科大学総合医療センター 専門研修、

2018年 埼玉協同病院

日本で人工透析を受ける患者さんの数は30万人を超え、年々増加しています。埼玉協同病院でも、年間約36人の方が新たに透析を始めています。安心して透析治療を受けていただくには、確かな技術と知識、そして互いの信頼関係が欠かせません。協同病院の透析を担う専門医、肥田徹医師に聞きました。

ロシアで医学を学び 32歳で医師に

肥田医師の経歴は一風変わっています。「書かなくていいよ」と本人は多くを語りませんが、日本の大学で経済を学んだのち、ロシアに留学。チェチェン紛争で悲惨な戦争状態だったモスクワで医学を学び、医師免許を取得しました。帰国後、日本の医師国家試験に合格し、埼玉協同
病院に入職したのが32歳のときです。
「当時はまだ、日本語の医学用語もよく知らなかった。そこからスタートし、2年間、初期研修医として内科や外科を経験。最終的に、透析の専門医になることに決めたんです」
透析医を選んだのは、研修で指導を受けた清水禮二医師(元・埼玉協同病院副院長)の影響だったそうです。
「尊敬できる先生で、その先生のもとで透析の患者さんを受け持ちました。透析治療は、腎臓の機能が低下し、体内の水分や老廃物のコントロールができなくなった患者さんに対して行います。腎臓のはたらきを機械が代替するのですが、患者さんの状態に合わせて機械を調整し、適切に動かすのは医療スタッフの役目。1人として同じ状態の人はいない
し、その日の血液検査の結果によっても変わります。それを自分自身でコントロールできるようになれたらうれしいなと思った。いや、コントロールというのは失礼かな……」
ぶっきらぼうなようで、患者さんを思う気持ちが言葉の端々からうかがえます。まっすぐな人柄が感じられました。

チームワークが必須の透析治療

透析治療とは、そもそもどういうものでしょうか。
「透析が必要になるのは、末期腎不全の患者さんです。腎代替療法には、血液透析、腹膜透析、腎移植という3つの選択肢があります。それぞれのメリットとデメリットを説明し、患者さんに選択してもらいます」
日本で実施されている透析の97%が血液透析です。針を介して体内から血液を取り出して透析器(人工腎臓)に送り、水分のコントロールや老廃物の除去を行い、きれいになった血液を体内へ戻す方法です。
「当院で行っているのも血液透析ですから、多くの方が選ばれます。腹膜透析や腎移植を選んだ方には、大学病院などを紹介します。血液透析を選んだ方には、どんな場所でどのように行うのかを説明し、理解できたところで、透析をするために必要なシャント手術を行います。静脈と動脈を縫い合わせて、血液を抜きやすくするんです」
手術が終わると、1回4時間、週3回の透析が始まります。ここで重要なのがチームワークだと肥田医師は言います。
「透析は基本的に、医師、看護師、臨床工学技士の三者が連携しないと成り立たないんです。看護師は患者さんのケアをしながら、透析中に問題がないかを見る。臨床工学技士は、透析装置や水処理装置などの機器を動かし、水を管理してきれいな透析液をつくる。医師はそれらすべてをマネジメントする。透析は、医師だけではできないのです」

緊急透析が必要な救急患者も受け入れる

末期腎不全の治療のために日常的に透析をする「維持透析」をしっかり導入することに加え、ほかの病気やケガで入院が必要になった患者さんへの維持透析や、急性腎不全の患者さんの緊急透析を行っているのも埼玉協同病院の特徴です。
「川口市には、入院して透析できる急性期の総合病院が3つしかありません。地域の中で重要な場所になっているのは確かです」
どのような患者さんにも対応できるよう、肥田医師は、透析に必要な技術を高める努力を欠かしません。
「難しい症例を多く扱う埼玉医科大学に昨年まで毎日通い、手術や緊急透析を繰り返し研修しました。現在も非常勤で週1回勤務し、手術を重ねています」
透析を続けていると、血管が細くなって血液の流れが悪くなるなどの不調が出てきます。そうしたときに肥田医師が行うのは、細くなった血管を太くするVAIVT(バイブト)というバルーン拡張術。難しい血管内の手術です。
「成功させるには、技術が絶対に必要。経験とセンスがものをいいます。私も最初は下手でしたが、勉強して練習して、大学に行って周りの人にも教えてもらって、レベルアップしてきました。いまも毎日が勉強で、終わりはありません」

透析ができる限り我々は絶対にやめない

人工透析の導入にあたっては、困難に直面することも多いといいます。患者さん本人の承諾が必要ですが、本人や家族が「透析をしたくない」という場合が少なくないのです。
1回4〜5時間ずつ週3回、医療機関に通うことになるので、透析が必要だと告げられると、人生が半分くらい取られてしまう気がするんです。その気持ちはよくわかります。でも、透析をしないと長くは生きられないことは明白なのです。
90 歳以上と高齢で、認知症のある患者さんに透析をするかというと難しく、ご本人と家族、我々で話し合い、導入しないと決めることもあります。
しかし、まだ若い方の場合、我々としては少しでも早く腎代替療法を始めてほしい。承諾されるまで、何度も繰り返し説明します。

信頼関係で結ばれ 長い時間を共に

お話を聞いていると、技術だけでなく、患者さんや家族とのコミュニケーションがいかに重要かが伝わってきます。
「納得し、信頼していただくために、それぞれの方に合わせて話し方を変えるなど、常に工夫しています。透析医は、患者さんと長い付き合いなんですよ。うちに通っている人たちとは10年の付き合い。週に15 時間一緒に過ごすので、家族に会う時間よりも長いです。患者さんは、機械と、我々の腕に身を任せていますから、信頼関係がなければ成り立ちません。私だけでなく、医療スタッフ全員との信頼関係が密なんです」
最後に、忘れられない患者さんはいますかと聞くと、こんな答えが返ってきました。
「全員です。我々は、ご本人が元気でいられるように力を尽くす。その毎日が大切なんです」

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