専門医シリーズ

痛みを治療するペインクリニックで患者さんを笑顔に

専門医シリーズ27

畔栁くろやなぎ 綾 医師

プロフィール

2000年、東京女子医科大学卒業。同大学病院に所属しながら、2011年より非常勤で埼玉協同病院麻酔科に勤務。2020年より常勤。2013~15年、NTT東日本関東病院ペインクリニックで専門研修。

日本麻酔科学会麻酔科専門医・認定医・指導医、日本ペインクリニック学会ペインクリニック専門医

埼玉協同病院の麻酔科外来では、毎週木曜日にペインクリニックを開いて、痛みの治療を行っています。担当する畔栁医師は、子育てと両立しながら麻酔専門医として技術と知識を磨いてきました。最新の治療を取り入れて、患者さんの痛みに向き合っています。

1本の神経に狙いを定めて薬を注射する神経ブロック

埼玉協同病院は、2016年にペインクリニックを開設しました。「ペイン」は「痛み」という意味です。腰や足、肩、首などの慢性的な痛みやしびれ、帯状疱疹などの神経痛、がんの患者さんの痛みなどに対して、神経ブロック注射などを用いて治療し、痛みを和らげます。
畔栁医師が治療している様子を窓ごしに見学させてもらいました。アンギオ室(血管造影室)という部屋で、レントゲンの映像を見ながら細い注射針を患者さんの身体に入れ、痛みの原因になっている神経に向けてゆっくりと進めていきます。慎重に針の先を動かして、ギリギリまで神経に近づけ、麻酔薬を注入。痛みの経路を遮断(ブロック)します。その手技はとても繊細です。
「狙うのは1本の神経のみ。神経を刺してダメージを加えないよう、患者さんの様子を見ながら慎重に針を動かします」と畔栁医師は言います。
「患者さんの身体や症状は一人ひとり違い、神経も、直径1cmほどある太いものから、目に見えない細さのものまでさまざまです。この治療をするには、解剖の知識と経験、そしてイメージすることがとても大事。レントゲンを見ながらここからこのように神経が出て、こう動かせばたどり着けるだろうと想像しながら治療をしています」

細かい手技が好き。感謝される仕事をしたい

畔栁医師が医師になったのは2000年のこと。
「産婦人科医の父の姿を見ながら育ちました。人に感謝される仕事っていいなと思い、私も医療の道へ。細かく手を動かすのが好きなので、さまざまな手技ができる麻酔科を選びました。学生時代の実習で、静脈に点滴を入れたり、気管内に挿管したり、手技を一つひとつできるようになっていくのが面白かったのです。麻酔科医はオンとオフがはっきりしており、育児や家庭と両立しやすいことも魅力です」
麻酔科医にもいろいろな専門がありますが、畔栁医師が目指したのはペインクリニックでした。国内屈指の手術件数を誇る病院に国内留学して2年間のトレーニングを積み、専門技術を磨きます。
「神経ブロック療法にはさまざまな種類があり、手技も多彩。いろいろな手技ができるのはペインクリニックならではです。そしてなにより、患者さんの痛みをとれる喜びがあります。診察室に入ってきた時と、帰っていく時の患者さんの表情がまったく違うので、やりがいが大きいです。『痛みがなくなり、できなかったことができるようになりました』などの言葉を聞くと、この仕事を選んでよかったと心から思います」

画像検査では原因不明の痛みも多い

ペインクリニックには、いろいろな患者さんが訪れます。原因の特定が難しいケースも少なくありません。
「痛みの背景に、複雑な問題を抱えている方もいますし、精神的な不調からくる痛みもあります。日本人の腰痛の8割は画像検査をしても原因が特定できない非特異的腰痛といわれるように、レントゲンやMRIなどで検査しても異常が見つからず、整形外科や神経内科を回って、最終的にペインクリニックにたどり着く方が多いのです」
畔栁医師が大切にしているのは、話を聞いて、認めることです。
「病院に行っても、家族に訴えても、痛みをわかってもらえないつらさを抱えている人がたくさんいます。ですから、原因がわからなくても否定せず、痛みを認めてあげる。それだけで落ち着く方も多いのです。痛いというからには理由があるはずなので、日々の生活や仕事、ストレスとの関係など、納得できる説明をするようにしています」
関節の痛みや、目に見えない神経の痛みなど、必要な場合は神経ブロック注射などの治療をします。
「いずれにせよ、患者さん自身が自分で治す努力をしなければ、痛みをとることはできません。高齢の方によくお話しするのは、生まれてから長年使ってきた自分の身体が一番自分に合っているのだから、これからは、自分の身体をメンテナンスしながら大事に使っていきましょうということです。ビンテージ車に油を差して使い続けるのと同じですね。薬や注射で痛みをとりながら、日々の生活を見直し、運動を心がけるなど、患者さんが主体となって治していくことが大事なのです」

新しい治療法を積極的に取り入れ、緩和ケアにも注力

畔栁医師は、非常勤を経て、2020年から埼玉協同病院の常勤となりました。週1回のペインクリニックのほか、手術麻酔や、入院患者さんの緩和ケアを担当しています。
「埼玉協同病院は、スタッフの方が優しくて協力的で、とても働きやすいです。ペインクリニックの機器も充実しており、アンギオ室を使った神経ブロック治療も積極的に行うことができます」
アメリカで2年間暮らし、緩和ケアを学んだ経験から、緩和ケアへの強い思いもあります。
「痛みに対する治療法は、どんどん進化しています。脊髄に直接、モルヒネを入れことで薬の使用量を減らし、副作用も軽減できるくも膜下ポートという方法や、体内にワイヤーを埋め込み、自動的に脊髄に電気刺激を与えて痛みをとる方法など、新しい治療法を取り入れて、その時、その時で患者さんが一番いい治療を受けられるようにしたいです。私自身が勉強しながら経験を積むと同時に、身につけた技術を伝える教育活動にも力を入れていきます」
日本人は我慢強いといわれますが、「我慢していい痛みはない」と畔栁医師は言います。人生を楽しむためにも、痛みのある方は、ぜひ一度、ペインクリニックに相談してみてはいかがでしょう。

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