診療実績 2013年
埼玉協同病院では、2005年から300項目以上の医療指標を設定して、医療水準・質の面での改善課題や引き上げ目標を明確にして取り組んでいます。医療指標は臨床指標、病院指標などとも呼ばれ(QI、CIなどと表されることもある)るもので、医療の質を定量的に評価する指標のことです。医療の質の良否を客観的に測ることのできる「ものさし」にあたります。ある医療行為などを行った全対象を分母として、得られた「望ましい結果(望ましくない結果)」やそのプロセスの適切さの程度を「比率で表す」という特徴があります。そうすることで、他の施設や社会の標準と比較することができます。
1-1_日常診療における学術研究活動(2014年3月)
埼玉協同病院では、医療の質を定量的に測るための指標を300以上設定しています。測定値をもとに課題を明らかにして改善策を立てたり、実行したことが改善にむすびついているかどうかを確かめながら、継続的な改善を図るためです。今回は、学術研究活動についてです。
医療は日進月歩と言われます。常に新しい知見を学び、必要に応じてとりいれながら、社会に通用する医療水準を維持する努力が欠かせません。医師をはじめとする医療職がその専門性を高めるために必要な学ぶ環境を整え、学会等への参加や日常診療における学術研究活動を奨励しています。これらは、個々人のキャリアアップや成長にとどまるものではなく、組織医療としての質改善のサイクルに位置づけられ、組織医療の質向上に還元されるべきものです。日々の診療の結果をまとめ、ふりかえり、標準的な医療が安全に提供できているのか、納得していただける医療が提供できるように、診療データを活用することは医学の発展にも重要なのです。
データの抽出や医療記録からの調査、加工、解析などの作業には多大な労力と時間が必要となります。診療情報室では、各種認定・専門資格の取得や維持に必要な症例検索や教育施設認定関連の症例データベースへの登録、院内感染サーベイランス(監視)や院内がん登録、手術症例登録などのほか、検索した情報の分析・加工などの支援を行っています。図は、2005年から2013年の診療情報室に依頼のあった、診療データ抽出・調査の依頼数と、学会または学術誌への研究発表数の推移です(医師分のみ)。依頼数は、4倍強となり、学会等からの調査を含めると7倍と増えています。教育研修センターSKYMETの設立(2011年3月)以後、さらに大きく伸びており、常勤医師の学会への参加率は87%となっています。
医療の質の改善 2013年 測定値
2-2_栄養管理はすべての治療の基本(2014年4月)
埼玉協同病院では、医療の質を定量的に測るための指標を300以上設定しています。測定値をもとに課題を明らかにして改善策を立てたり、実行したことが改善にむすびついているかどうかを確かめながら、継続的な改善を図るためです。今回は、入院中の栄養管理についてです。
栄養管理はすべての疾患治療の基本となるものです。栄養状態が悪ければ治療効果が十分に得られません。逆に過剰栄養が病状を悪くしてしまう場合もあります。状態に合わせた適切な栄養管理ができるよう、医師、栄養士、看護師、薬剤師、言語聴覚士といった専門職がそれぞれの知識・技術を持ち寄って栄養管理をする栄養サポートチーム(nutrition support team:NST)が活動しています。
栄養状態は、身長と体重のバランス、体重の低下、血液中のアルブミン濃度などによって評価します。アルブミンは血液中の主要なたんぱく質で、食事摂取不足による栄養不良状態により低下するため、栄養状態を評価するよい指標の1つです。入院早期に看護師と管理栄養士が連携して患者の栄養状態を評価し、リスクの高い患者には「栄養管理計画」を作成して必要栄養量や栄養法の提案、食べやすい食事の工夫などをしながら、食事摂取がすすむよう支援しています。さらに高度の栄養リスクのある患者には、食事が開始できそうか、飲み込みの機能はどうか、輸液の内容は十分か、薬の変更の必要性はどうかなど、NSTが総合的な観点で栄養改善のための相談をします。食べられない状態が続く場合には、なるべく経鼻栄養(鼻からチューブを入れる)により腸を使うことを勧めています。腸管粘膜の表面には免疫組織が多く存在し、全身の免疫能に重要な役割を担っており、絶食により腸管が使用されないと粘膜が萎縮し、免疫能が低下してしまうためです。
入院早期に栄養状態の評価を行い、適切な栄養管理を開始することが重要です。この間、看護師-管理栄養士-NSTの連携をスムーズにするため、NST必要性の判断基準の見直しや経鼻栄養の標準計画などの整備を進めてきました。NST評価時期(図1)を見ると1~9月期に比べ、10~12月ではより入院から早期に多くの患者に対して関わるようになりました。まだ成果と言えるかどうかはわかりませんが、血清アルブミンの値の改善割合(図2)で見ると、入院時低栄養患者の改善割合が増加し、大きく低下したまま退院となる患者の割合は減少も見られています。
3-2_救急病院としての役割を果たすために(2014年5月)
埼玉協同病院では、医療の質を定量的に測るための指標を300以上設定しています。測定値をもとに課題を明らかにして改善策を立て、実行したことが改善にむすびついているかどうかを確かめながら、継続的な改善を図るためです。今回は、救急医療の質についてです。
2013年の年間救急車受け入れ件数は3331件でした。川口市は、人口58万5千人、13の救急告示病院で救急患者の受け入れに対応していますが、搬入件数は川口市内からが3分の2にあたる約2273件、さいたま市から915件、その他近隣の自治体からの搬入もあります。猛暑・酷暑の続いた2011年には4000件を超える救急車を受け入れましたが、その後も3000件を超える搬入となっています(図1)。重症度を見ると2013年は中等症以上(入院治療を必要とする程度以上)が35%で、これは搬入件数が最高だった2011年と比べてもほぼ同じくらいの件数となっています。
搬入時の症状をみてみると(図2)、損傷・中毒が19%と最も多く、次いで消化器の疾患、全身性または部位が特定できない疾患・症状、呼吸器疾患と続きます。損傷・中毒の内訳をみると骨折・切傷などのけがが70%、急性アルコール中毒や飲酒状態でのけが9%、熱中症7%、薬物中毒や過量服用6%、その他食物アレルギー、誤飲、有害物質による害、熱傷などです。全体の8割は病気であり、救急搬入時には診断が確定しないことも多いのですが、その場合は救命処置を行いつつ、診断のための諸検査等を進めることになります。要請に応えられなかったケースの3割が救急患者・他の重症患者の対応中、3割はベッドが満床、当該科の手術や処置などで対応困難なケースを含めると全体の4分の3を占めています。2012年7月から、特定集中治療室(ICU)を設置して重症患者の対応を強化してきましたが、まだまだ要請に応えられていない現状です。
脳・心血管系の疾患では、発症から数時間の処置が予後を左右するため、現在の埼玉協同病院の診療体制の状況では、CTや MRIによる速やかな鑑別診断を行い、医師同乗のうえ、近隣の高次救急病院に転送することになります。中等症以上の患者のうち、7%は当院での初期対応ののち、高度の緊急専門的処置ができる病院への転送例です。その内訳は、脳出血・くも膜下出血、急性心筋梗塞など脳心血管系の疾患が3割を占め(図3)、近隣の高次救急病院との連携で対応しており、最初から専門科での対応をお願いするケースはその3倍ほどあります。できるだけ、当院で治療継続できるように、専門的医療診療体制を整えることが大きな課題となっています。
4-1_「病診連携」で患者のニーズに応える(2014年6月)
埼玉協同病院では、医療の質を定量的に測るための指標を300以上設定しています。測定値をもとに課題を明らかにして改善策を立てたり、実行したことが改善にむすびついているかどうかを確かめながら、継続的な改善を図るためです。今回は当地域における「病診連携」についてです。
埼玉協同病院は当地域で急性期医療と専門性の高い診療のニーズに応えられるよう、2009年度以降、本格的に「病診連携」の取り組みをスタートさせました。「救急分野」の強化とともに、入院治療・専門診療科高額機器の検査等、急性期病院としての機能を活かした受け入れを向上させてきました。
まず、全体の紹介件数の推移(図1)ですが、年度を追うごとに紹介患者数は増えそのうち2割強が入院となっています。2013年度の診療科別の紹介受け入れ患者数(図2)を見ると、内科が3分の1、ついで整形外科、小児科の割合が高いのが特徴です。内科と夜間・救急の一部を更に専門診療科別に見ると消化器内科、循環器科、呼吸器科、糖尿病科の順となっています。2年前に一般内科を「内科急患外来」と名称変更し、急患の方や紹介患者の対応に力を入れてきましたが、専門診療科に対する期待に応えられるよう、受入れ体制を整えることが課題になっています。整形外科の紹介件数は年々増加しており、特に変形性股関節症や変形性膝関節症の手術目的の紹介が増加しています。
検査(MRI、CT、内視鏡検査等)の依頼件数の推移(図3)も増加しています。特に2011年度に全国で3番目の導入となった3.0T(テスラ)のMRIの依頼数は、2009年度64件から2013年度295件と約5倍の増加となっているのです。
紹介された患者様の病状が安定されたら、紹介元の医療機関で安心して療養を継続していただけるよう十分な診療情報提供を行い、信頼関係のうえにスムーズな連携ができるようとりくんでいます。
6-1_がん検診の精度を高めて早期治療につなげる(2014年7月)
埼玉協同病院では、医療の質を定量的に測るための指標を300以上設定しています。測定値をもとに課題を明らかにして改善策を立て、実行したことが改善にむすびついているかどうかを確かめながら、継続的な改善を図るためです。今回は2013年のがん検診の精度向上と早期治療につなげるとりくみについてです。
がんは高齢者人口の増加に伴って増え、2012年は約36万人、国民3人に1人ががんで死亡しています。がん細胞は、絶えず体内で発生しており、がん細胞の増殖条件が整ったときにがんとなりますが、ふつうは遺伝子の異常ががんになるまでには数十年かかるといわれています。がんは早い段階で見つかれば根治も可能ですが、放置すれば治療が困難になります。一方で過剰診断になるリスクもあり、がん検診は科学的根拠にもとづいた精度管理が進められるようになりました。
部位別の死亡数トップ3の胃、大腸、肺の年代別がん発見率(図1)は、胃、大腸、肺とも70代が最も高くなっています。全年代を合わせた発見率は全国対がん協会の集計(2010)と比べると少し低めですが、発見率の推移は図2のとおりで、胃がんと大腸がんについては4分の3が早期がんでの発見でした。
検診精度を表1にまとめました。「要精査率」は、精査が必要と判定された割合ですが、高い方がよいわけではなく胃11%、大腸7%、肺3%以下であることが目標とされています。胃はこれまで、がん以外の病変についても要精査と判定してきたため31%と異常に高くなっていました。効果的な検診とするために、判定区分とフォロー方法の見直しを行い、がんを疑う場合はすみやかに精密検査のご案内ができるよう変更しました。
「精査率」は精査が必要と判定されたうち精査を受けた人の割合です。全国の半分という状況ですが、この間とりくみを強めて改善を図ってきました。大腸がん検診では便潜血の陽性判定者の血液データを検討し、早めの受診を勧めたい方には結果表ができる前にも電話で診察予約を入れ、不在の場合でも受診の必要性を伝える工夫もしてきました。また過去に陽性反応が出ていた方で未受診だった方へも受診のお勧めを強めてきました。その結果、陽性反応的中率(要精検と判断された人のうちがんがみつかった人の割合)は全国2.35%に対して当院2.7%という結果が得られています。しかし、大腸がんは全国的にも精検率が低い現状であることや、検診から診断までの期間が平均で82日、3か月近くかかっていることなど、早く受診していただけるようまだまだ工夫や改善が必要です。
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