機能評価診療実績

診療実績 2010年

がん検診の精度と要精査者の精査率(2010年)

今回は、がん検診の指標についてです。検診の精度を発見率で見ています。表は2010年の5つのがん検診の発見率です。発見の頻度はとても低いものなので、誤差範囲を見込んだ「95%信頼区間(※)という手法を用いて範囲で示しています。これを見ると、胃がん、乳がん、子宮頸がんは、全国集計(対がん協会集計05)と同等ですが、大腸がんと肺がんは低い結果となっています。その理由は、検診で異常があり精密検査(精査)が必要と指摘された方のうち、実際に精査を受けた方の割合(精査率)が全国平均に比べてとても低いために、がんの発見ができないでいるからです。つまり、精査を受けていない方の中にがんが隠れている危険性があります。異常を指摘された人が放置しないで精査を受ければ、発見率は全国レベルになると考えられます。

※95%信頼区間・・同じ集団に同じ方法で検診を行ったとき、100回中95回はこの範囲に入ることを意味する

[表]がん検診の要精査率と発見率

  胃がん 大腸がん 肺がん* 乳がん 子宮頸がん
発見率 当院実測
95%信頼区間
0.11
0.04~0.18
0.09
0.04~0.14
0.01
0~0.02
0.23
0.05~0.41
0.1
0.01~0.18
全国集計 0.13 0.17 0.04 0.24 0.06

*肺がん(当院)は09-10年の集計 (単位%)

精査率は、検診の種類によって大きな開きがあります(図)。健診センターでは要精査の方に個別に受診のお勧めをしていますが、2010年の精査率は、2009年に比べると大幅に改善したものの、胃がんで37%、大腸がんでは24%で、肺がんではわずかに18%です。大腸がん検診で便潜血が陽性となった方の4人に3人は精査を受けていないことになります。どのがんも早期で見つかれば完全治癒が可能な疾患です。きちんと精査を受けていただくようにお願いいたします。

外科手術の指標(2010年)

外科手術に関する指標はたくさんあります。
1つは、手術と1口にいっても、その難易度はさまざまです。消化器外科学会は、外科医師の修練プログラムを策定し、消化器外科専門医となるための要件として、低難度~高難度手術を少なくとも各50例以上、合計450以上の手術経験を有することなどを設けています。指定修練施設では、指導医のもとで必要な手術ができる施設であることが求められます。十分な経験ができるよう、難度別手術の実施数を測定しています。2008年から、高難度、中難度の手術が増えていることがわかります。

また、術中・術後の合併症がなく、順調に経過して早く退院できることは、誰でも願うことでしょう。外科では、術後の感染症や合併症の頻度、緊急再手術となった件数を減少させるべき指標として測定しています。難しい手術の場合、それだけ合併症のリスクも高まりますし、高齢の方や、糖尿病や心疾患、肝蔵・腎臓や呼吸器の病気などがある場合も麻酔によるものも含めて合併症のリスクは高まります。手術チームの技術と、リスクに応じた術前後のケアによって最小限に抑える努力がされています。
がんの手術で最も多い大腸がん手術の件数と合併症(左図)をみると手術件数は年々増加していますが合併症は減少しているのがわかります。また可能な症例では、腹腔鏡を用いた低侵襲手術をとりいれています(右図)。

糖尿病治療の状況(2010年)

糖尿病外来に通院している2型糖尿病の患者さんは約2800人いらっしゃいます。その治療状況の3年間の推移です(6ヶ月以上通院している方の6~7月の値)。糖尿病は、血糖値を適正にコントロールして、網膜症や腎不全、末梢神経障害などの細い血管の変化によって起こる合併症を予防するのが治療の目標です。
血糖値は非常に変動が大きいので、1~2ヶ月の血糖値の平均を反映するHbA1cという値が、糖尿病のコントロール状況を表すよい指標とされています。

指標 不可
不十分 不良
HbA1c(JCD値)(%) 5.8未満 5.8~6.5未満 6.5~7.0未満 7.0~8.0未満 8.0以上

棒グラフは、6ヶ月以上通院している患者さんの平均値です。2009年、2010年とデータが改善しています。糖尿病データマネジメント研究会が2007年に行った調査では(60施設、約4万人のデータ)、平均HbA1c値は6.85%(グラフ点線)という結果でしたので、これに比べてもよくコントロールできていることがわかります。折れ線は、7%未満にコントロールできている人の割合で、約3分の2の方がコントロール目標を達成しています。
当院は4人の糖尿病専門医と、10人の糖尿病療養指導士が、チームを組んで患者さんの療養をサポートしています。

消化器内科の指標~消化器内視鏡検査と慢性C型肝炎のインターフェロン療法(2010年)

当院入院患者の疾患別内訳は、多い方から、新生物(がん)18%、消化器疾患16%ですが、がんを含めると消化器の疾患が25%を超えます(内科・外科)。今回は、消化器内科の指標を紹介します。
図1 は、消化器内視鏡検査の件数の推移です。上部は食道から胃、十二指腸まで、下部は直腸と結腸です。2009年は予約枠を増やして件数を伸ばしましたが、2009年から2010年にかけては、吐血や下血で急を要する患者への緊急検査および止血処置の件数・割合も増え、救急車受け入れ数増加の反映ともいえます。
図2 は、慢性C型肝炎のインターフェロン(IFN)療法の開始人数と、IFN 治療に対する医療費助成制度の利用数です。日本のC型肝炎患者の多くは、血液製剤や予防注射などが原因で感染しました。20~数十年かけて肝硬変や肝細胞がんに進展していくのを防ぐには、C型肝炎ウィルスを体内から排除することが、最も有効な治療法とされています。しかし、ウィルス排除の標準的治療法であるIFN 療法は、副作用も強く、半年から1 年間の長期に及び、しかも非常に高額であることから、治療をあきらめる人が多かったのです。国が責任を認め、助成制度を創設したのは2008年のことです(助成は県が実施)。当院は1992年からIFN療法を実施し、肝炎患者の治療とともに、療養面での相談や支援も続けてきています。

肺がん診療の指標(2010年)

肺がんが疑われた場合、がん細胞を確認し、どの程度広がっているかを知るために、①喀痰細胞診 ②気管支鏡検査 ③胸腔鏡下肺生検などの診断方法で肺がんの確定診断を行います。図1 は肺がんの疑いで実施した気管支鏡検査の件数と肺がんの確定診断数・率の推移です。病変の位置や大きさによって気管支鏡検査が困難な症例もあり、当院の診断率は45~55%となっています。2010年は、件数が減少していますが、胸腔鏡下肺生検(胸腔鏡を用いて外科的に肺の一部を切除して検査する)件数が増えています。

肺がんの治療には、進行度やがんのタイプ、全身状態などを考慮し、①外科治療(手術)、②放射線療法③化学療法(抗がん剤)などが検討されます。①手術件数と③化学療法の件数は図2、3のように、少しずつ増えています。わが国のがんによる死亡を部位別にみると、2009年には肺がんが男女とも1位となりました。早期の発見が難しく、術後の5年生存率も胃がんや大腸がんに比べて高くありません。外科では、可能な症例には、胸腔鏡手術を実施して切除する範囲をなるべく小さくしたり、がんの縮小やがんの進行を抑えて質の良い生活(QOL) を長く維持してもらうための化学療法についても、内科と外科が連携して診療にあたっています。

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