埼玉協同病院

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専門医シリーズ20

痛みによる不安やストレスをのりこえるお手伝いを

専門医シリーズ 20

金子 吾朗 医師

プロフィール●

2008年琉球大学医学部卒業、同年埼玉協同病院勤務、
2010-15東京女子医科大学東医療センターで麻酔科専門研修、
2016年より埼玉協同病院勤務


日本麻酔科学会麻酔科専門医

手術のときに痛みを感じないよう、麻酔をかけて手術中の体のダメージに対する生体の反応をおさえつつ、循環と呼吸を維持するのが麻酔科医です。手術麻酔のほか、術前・術後の診察、神経痛や腰痛などの慢性的な痛み(ペイン)を緩和するペインクリニックも担当。金子医師は日夜、奮闘を続けています。

地質調査の仕事から医師に転身

「36歳で医師になったのですが、思った以上に体力的にきつくて、続けられるかなと思いました。それでも人間、やってくうちに慣れるものですね。他の科よりも短期間で即戦力になれる麻酔科医になりました。手術室はフル回転。麻酔科医がいないと手術はできないので、術前、術後の診察も合わせて、毎日、全力で取り組んでいます。外科の先生たちも遅くまで頑張っていますしね」
夜、遅い時間のインタビューにもかかわらず、笑顔で応じてくれた金子医師。澄んだ眼差しが印象的です。
もともと、宇宙や地球の歴史に関心があり、名古屋大学の大学院を修了。大手の地質調査会社で働いていたそうです。ところが、会社の経営悪化でリストラが始まり、職場環境が悪化。希望を見出せなくなりました。
「この先、自分にできる仕事は何だろうと悩みました。そして、医学部に入り直すことを決めたんです。山間部での地質調査で地元の人たちにお世話になり、地域医療の必要性を身にしみて感じたことも理由の一つでした」

病気になったときくらいお金の心配をせずにすむ社会に

こうして、医師になって約10年。初期研修から一貫して埼玉協同病院に籍を置いています。
「この病院は、差額ベッド料を取らない非常に珍しい病院ですよね。大学病院での専門研修中に、いろいろな病院を見てきましたが、他の病院では、患者さんたちは差額ベッド料を気にしなくちゃいけない。なかには、開腹手術を終えて麻酔から覚めた途端、『入院費がないから帰ります』と無理やり帰ろうする患者さんもいました」
そうした場面を目の当たりにするたびに、金子医師は、やりきれない気持ちになったと言います。
「本当に、日本って貧しい社会になったなあって思います。病気になって入院が必要になったときくらい、お金の心配をせずにすむ社会であってほしい。それが理想ですよね」

手術における麻酔科医の役割とは

麻酔科医の主な仕事は、患者さんの体を、安全に手術を受けられる状態にすることと、痛みを抑えていくことです。痛みによる不安やストレスをできるだけ緩和することと、術中の呼吸と循環を維持することで、手術に伴う肉体的なストレスを軽減するのが役目だと金子医師は言います。
「術後の痛みや手術中に目が覚めることを心配される方が多いですが、手術中は麻酔科医が常に管理しているので、目が覚める心配はありません。術後の痛みについては、硬膜外麻酔やiv PCA※といった鎮痛法で、できるだけ痛みを少なくできるように努めています」
麻酔は人の生体反応を抑えていく操作をします。
「意識や痛み反応、呼吸、心臓の機能など、人体の機能を薬で抑え込んだ状態で、循環と呼吸を維持していくんです。それが麻酔科医の役割。万一、危機的な状況に陥ったときにも的確に対処できるよう、脊髄に染みわたるくらい基本を繰り返し、一つひとつの麻酔を丁寧に行っていくことを大切にしています」
麻酔科医は治療するわけではありませんが、できるだけ快適に手術を受けられるようにしたいと話す金子医師。
「手術を終えた患者さんが、痛みもストレスもなく、『あれ、終わったの?』という感じで目覚めるのを見るとうれしいですね。俺の麻酔、うまくいったぞ、って」

※iv PCA…患者自身がボタンをおして鎮痛薬を投与する機械を使う鎮痛法

執刀医と麻酔医の良好な関係も当院の特色

手術の現場では、執刀する外科医や整形外科医、産婦人科医と麻酔医が、コミュニケーションをとりながら手術を進めます。緊迫した状況の中で、互いに声をかけやすいかどうかも、いい手術をするために大切なことの一つです。
「埼玉協同病院の特徴は、執刀医と麻酔科医のコミュニケーションがすごくとりやすいことです。研修医時代から知っている先生ばかりですし、高圧的な態度の先生は一人もいません。無事に手術を終えて、執刀医から感謝されるのもうれしいですね」

ペインクリニックで患者さんの苦しみを和らげる

週1回、外来でのペインクリニックにも力を入れています。開設にあたり、金子医師には特別な思いがありました。
「研修医時代、忘れられない体験があります。腰痛で身動きができなくなった患者さんが、痛みのあまり自宅で大量に服薬し、救急で運ばれてきたけれど助けられなかった。腰痛のつらさを思い知った衝撃的な出来事でした。その後、別の病院でペインクリニックのことを知り、ブロック注射で一時的でも腰痛が楽になったと喜ぶ患者さんたちの笑顔を見ました。『あのとき、僕にこの注射ができていたら』と強く思いました」
病気や痛みの原因そのものを取り除く治療ではないけれど、症状を緩和するのが麻酔科医の役目であり、大きなやりがいです。
「普通のお医者さんとはちょっと役割が違いますが、痛みを和らげることがいかに大切かを常に感じながら仕事をしています。今は、どうしても手術麻酔が中心ですが、今後は、がんの痛みに苦しんでいる緩和ケアの患者さんに対しても、できるだけ痛みに悩まされずにその人らしく過ごしてもらえるよう、関われたらと思っています