専門医シリーズ

救急に加えて新型コロナ対応も分け隔てなく

専門医シリーズ23

守谷 能和 医師

プロフィール

2005年香川大学医学部卒業。 同年、埼玉協同病院入職。 2014~2015年北九州の健和会大手町病院救急科で研修。 2015年7月より埼玉協同病院ER。 日本内科学会総合内科専門医、日本消化器内視鏡学会消化器内視鏡専門医、日本救急医学会専門医。

「無差別・平等」を掲げる埼玉協同病院。救命救急室(ER)の守谷能和医師は、その理念を最前線で体現している一人です。さまざまな病気や事情を抱える人を受け入れるために、医療の質の向上や体制づくりに努め、地域からの人望を集めています。

地域の中で人の役に立つ仕事がしたい

24時間体制で救急の患者さんを受け入れ、治療を担当する救急医の守谷医師。新型コロナウイルス感染症への対応もあって多忙を極めながらも、その表情と語り口は温かく穏やかです。
「それぞれの状況の中で、自分がこういうことをやれば全体のためになると思ったら、一生懸命やる。どんなに大変でも、無駄なことは一つもない。その思いで、何事にも取り組んできました」
世の中の役に立つ職業に就きたいと思い、医師を志したのは高校生のとき。一度は別の学部に進学したものの中退し、親に負担をかけまいと新聞配達をしながら医学部を目指したそうです。医療生協さいたまが実施している高校生向けの「一日医師体験プログラム」に参加したことから奨学生になり、大学時代は医学連(全日本医学生自治会連合)の中央執行委員長も務めました。
卒業後、地域医療の現場で働きたいと埼玉協同病院に入職したのが15年前のことです。

消化器内科医として腕を磨いた10年間

最初の10年間は、消化器内科を担当していました。
「難しい症例や専門的な手技が多く、目の前の患者さんを助けられるだけの技術や診断能力、プロフェッショナリズムを身につけなければ医師としてのスタート地点に立てません。親切な病院だから診断が甘くていい、技術が劣っていいなどということは絶対にあってはならないので、自分の力量や専門性を高めようと、必死で勉強しました」
そして10年目、院長から「救急を担当してほしい」との声がかかります。当時はまだ救急科がなく、地域の中で必要性が高まる中での指名でした。
「救急は当直でなんとなく経験はしていましたが、また一から勉強です。救急病院で1年間研修し、帰ってきて本格的に救急医療を始めました。すると、地域の特性や患者さんのことが、すごく見えるようになったんです」

どんな医療が必要なのか救急の現場に来てわかった

川口市、特に南部は昔から労働者の町で、生活に困窮している人も多く、人口比率が多いわりに医療機関や医者の数が少ないという問題があります。
「地域の課題を頭では知っていたし、我々がどんな医療をしなければいけないかも理念としては理解していたつもりでした。でも、救急医療に携わるまではあまり実感がなかったんです。
救急で働くようになって、大変な生活をしている人がたくさんいることを身をもって知りました。家の中で倒れて、誰にも発見されず、ようやく救急車で運ばれてくる人がいる。救急隊も、搬送先が見つからなくて日々困っている。他ではなかなか受け入れられない人たちを受け入れていくのが医療生協や我々の役割の一つなんだと、いまは痛感しています」
そうした人たちを迎え入れ、治療や生活環境の改善につなぐ“かけこみ寺”が救急科。『季刊ふれあいNo.18』でも紹介しましたが、1台でも多くの救急車を受け入れたいと守谷医師は言います。

新型コロナも恐れず力を発揮するのが医療者の役目

そうした中で、新型コロナウイルス感染症の流行という大きな社会問題が起きました。ICD(インフェクションコントロールドクター)という、感染制御資格の認定をもつ守谷医師は、病院内の感染防止対策や検査体制づくりを中心になって担当。救急に加えて、仕事量が2倍に増えました。
「救急の現場でも常に気が抜けません。コロナに感染しても無症状の人が結構いるので、まったく違うケガや病気で救急車で運ばれてきて、検査をしたらコロナウイルスが陽性だったという場合もあります。
スタッフ全員が感染対策を徹底しながら適切に診断していくことが重要で、物理的にも精神的にも負担は大きいですが、救急を担当しているからには、自分達が中心にやらなければいけない。誰も経験したことのない危機や災害の現場で力を発揮するのがプロフェッショナリズムであり、医療者の本来の役割だと思うんです」
診察や治療の傍ら、国内外の論文を読んで最新情報を頭に入れる毎日。感染症について、これほど深く勉強したことはなかったと守谷医師は言います。
「大変ではありますが、人として、医師として成長できる得難い機会だと捉えています。コロナ禍を機に、働くとはどういうことなのか、人生において何が大事なのかが自分の中で明確になったようにも思います」

助け合える世の中に

コロナ禍をきっかけに、人々の意識や行動も大きく変わりました。
「デマが出回ったり、感染した人へのバッシングが起きたりしていますが、今の時代にこういう差別的なことが平気で行われるとは、どういう世の中なのかと情けなくなります。大事なのは、正しい知識を身につけて、正しい対処方法を共有することです」と守谷医師は言います。そして、こういうときこそ、組合員同士のつながりや助け合いが大切だということも。
「新型コロナは、お金のある人もない人も同じように感染します。誰もが平等に治療を受けられなければ収束しません。社会全体を良くするためにも、どのような医療が必要かをみんなで考えていけたら」
埼玉協同病院をより働きやすい職場にして、少しでも地域や社会の役に立てるような医療を今後も続けたい。
身近なところから良くなって、それが広がっていけば、全体が良くなっていく。そんな世の中を目指して、今こそ、地域全体、組合員全体で医療を支えていければ。それが守谷医師の思いです。

関連ページ

メニュー