専門医シリーズ

必死に取り組めば必ず突破口は開かれる

専門医シリーズ21

忠男 医師

プロフィール

1978年群馬大学医学部卒業。同大学医学部付属病院第二内科入局、その後深谷赤十字病院、さいたま市立病院勤務を経て、2014年より埼玉協同病院消化器科勤務。

消化器系の多数の領域で専門医・指導医

慢性膵炎・膵石の内視鏡治療実績堂々の全国1位(2020年現在)。 世界でもトップクラスの実績をもち、国内はおろか遠くアフリカからも患者さんがやってくる。胆膵系内視鏡専門医の忠男医師は、一方で人権や平和を守る熱き運動家の一面も持っています。

大学闘争の真っ只中に中退 生きるために医者の道へ

治療の合間に伺うと、「食事がまだで、おなかがすいちゃって」と取材班の分まで飲み物と菓子パンを用意してくださっていた医師。結局、ご自身は一口も口にせず、約1時間、話をしてくださいました。
「1948年生まれで今年、年男。見た目は若いとよく言われますが、中身は十分古くなってます(笑)」
ユーモアを交えて語る明るいドクターです。もともとは文系で、高校卒業後に入学したのは某大学政経学部。ところが1960年代後半は全国的に大学闘争の真っ只中、大学のストライキで授業どころではなく、このまま在学していても展望がないなと思い、4年生のときに思い切って退学したそうです。
「その後いろいろなアルバイトを転々とし、家庭教師で中学生の受験指導をしているとき、もしかしたら俺ももう1回大学受験ができそうだと思うようになってね。それで予備校に1年通い、1日16時間ほど猛勉強。専門性を持とうと地元の大学の医学部に入ったんです。いわば成り行き、生きていく手段としての選択だったけど、医者にならせてもらったからには、一生懸命やる。与えられたチャンスを生かさなければ申し訳ない。そんな気持ちでやってきました

専門医が少なかった肝胆膵の超音波診断を皮切りに

専門領域は肝胆膵疾患、この領域のがんの内視鏡治療も行いますが、最近では膵石や胆管結石を中心とした炎症性疾患を精力的に行っています。膵石の治療では体外衝撃波結石破砕治療(ESWL)に、独自に開発した内視鏡的方法で治療しているといいます。ちなみに慢性膵炎・膵石の内視鏡治療の数は、国内第1位。大学病院やがんセンターなどからも紹介患者さんを受け入れているほか、実績は世界でも知られており、なんとアフリカのマダガスカル島からも、定期的に患者さんが治療を受けに来ているそうです。
「肝胆膵を中心とする消化器内科を専門に選んだのは今から約40年前のこと、当時勤めていた病院は、たまたま消化器部門が手薄でした。そこで手が空いていた僕がやることになったんです。ちょうどその頃、腹部の超音波診断技術が向上し、診療に大きな力を発揮するようになってきていました。診療の需要が高まる一方で、消化器の専門医が少なかった。そこで必死で勉強しました。いろいろな先生に教えを請い、技術を学んでいきました。肝胆膵の超音波診断は、まるで美しい絵画を画面に自分の手で描くようで、私の性に合ったんですね、実際の絵を描くのはへたですが!」
この超音波検査を出発点に、胆道ドレナージ、内視鏡治療、血管造影へと、肝胆膵領域の世界に入っていきました。

結石を破砕し、独自の内視鏡的治療法で結石を除去する

そして、今から30年ほど前、ドイツで始まったESWLという方法に医師は着目します。
「体外で衝撃波を発生させ、体内にある結石(当時は胆石が中心)に当てて細かく砕く方法です。最初は腎臓結石の治療が主でしたが、胆石等の消化器疾患にも応用できるということで、ドイツで開始された1年後に私も本邦で始めました。そのうち膵管にできた膵石にも非常に効果的だという報告が出て、私も治療に取り入れました。90年にはアメリカの専門病院でESWLの研修を受け、実績を積んでいきました」
その後、さいたま市立病院に移ります。
「当時、膵石の治療にはみんな困っていたんです。それで治療を始めたら、あっという間に患者さんが集まってきました。そして、日本でトップの治療実績になったんですね。同病院を定年退職後、患者さんとともに協同病院に移りました。現在は単一施設では埼玉協同病院が膵石治療例数で世界1位です」
これほど頼りにされるのは、前述のとおり、医師が独自に開発した内視鏡治療法があるからです。
「衝撃波で結石を割ったあとに、繊細な技術を必要とする内視鏡治療を行います。私たちが開発した膵管バルーン拡張法や副乳頭経由の治療法がそれで、この方法に関して邦文・英文で論文発表してきました。やるからには、世界で光っていたい、誰にも負けない治療法を開発したい。その一心で、必死に考え続けました。すると、こうすればうまくいくんじゃないか、というヒントが、向こうからやってくる。非常に不思議なことにね」

人権と平和、福祉と医療を守り続けたい

医師は現在も、衝撃波による破砕と内視鏡を組み合わせた治療を続けています。膵石の症例は通算800例にも上るそうです。また年間の膵胆管造影検査(ERCP)は600例を超えます。ただ、悩みは同好の士が少ないこと。幅広くオールラウンドに治療する医師と、特定の領域でトップクラスの治療をする医師の両方が、病院の底力を上げていくには必要だ、とも医師は言います。
「私も71歳。あと何年働けるかわかりませんが、続けられる限り力を尽くして治療を極めたい。この分野に興味をもつ同士が来てくれて、一緒にやってくれるとありがたいですね。今後もこれまでの仕事を論文にまとめ、世に問うていきたいと思います」
さらに、次のようにも語ります。「これらはすべて、平和だからできること。人権が守られ、豊かに平和に暮らせる社会、言いたいことが言える環境あってのこと。それがどんどん逆行している最近の世の中、一人ひとりが自分の持ち場で、平和に逆行する動きを押し返していかなければと思います。私は沖縄に多くの友人がいます。沖縄の辺野古で平和のために闘っている友人たち、彼らを応援しなければと現地での座り込み行動に参加してきました。埼玉県でも沖縄の基地問題に関し発信を続けています」
医師には、「沖縄の闘いに連帯する関東の会」という市民団体の会長という一面もあるのです。三線を弾けるようになって、辺野古の仲間たちとゲート前で肩を組んで歌いたいと意気軒昂。その表情は、やはり年齢を感じさせない若々しさです。

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